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反抗期の長靴

ー数年前の夏に書いたものからー

八月ももうすぐ終わるというのに、梅雨みたいな長雨の今日。
刺すような日差しからは解放されたけど、動くとやっぱり蒸し暑い。
そんな鬱陶しい天気でも、座れる帰宅電車での居眠りは気持ちいい。。。

床に雨水、湿っぽい座席。
いつもより環境の悪い車両で、今日も入口側の端の席を確保。コクリコクリ始めると…。

「立って」「やだ」「立って」「やだー」
「そんなところに座ったら濡れちゃうよー」「やだー」

目を開けて、「やだ」の方向に視線を向けると
手摺越しに小さな長靴が二つ、若干リズムの悪いワイパーみたいにゆらゆらしている。
「あっ、ごめんなさい。座ってください!」後で考えたら謝ることもなかったけれど、すぐに気付かなかった自分がバツ悪く…。
立ち上がろうとする私を若いママさんは静止して、
「大丈夫です。どうせ座りませんから。反抗期で…、すみません」
苦笑いをしながら、座席の角に寄り掛かり床に座って困らせる我が子を見つめる。

手摺越しにもう一度ヤダ子ちゃんを見下ろすと、取り敢えず濡れた場所には座っていない。
3歳にはなっていないかなー?小ちゃなヤダ子ちゃんは、どうやらママの言うことに「やだ」と返すのを楽しんでいる様子。私も少し様子を見ようと再びコクリコクリ。

しばらくするとママの言葉にヤダ子ちゃんは反応しなくなり、「飽きたな?」と思ったので再び覗き込み「ここに座る?」
ヤダ子ちゃんはパッチりしたお目々で私を見上げゆっくりコクリ。
「そうだよねー。そこじゃ濡れちゃうよねー」私が席を立つと、きっかけができてホッとした様子のヤダ子ちゃんはすっくと立ち上がり座席によじ登る。
ママは呆れ顏、「もう…、結局…。すみません」「いえいえ、大丈夫です(笑)」

ヤダ子ちゃんは、いつから持っていたのかフライドポテトを頬張りながら座席の上で足を投げ出す。ママは自分の傘と小さな傘を仲良く手摺に下げて、ヤダ子ちゃんの長靴を脱がせ座席の下にきちんと並べた。
その一連の作業がこのママさんの人柄を良く表していて、私の笑みを誘う。
「ねっ、ここの方がいいでしょ?」ママと二人でヤダ子ちゃんを見下ろすと、相変わらずポテトを頬張りながらパッチリお目々でママと私を交互に見上げる。

程なく私の最寄り駅。
「失礼します、お気を付けて!」「ありがとうございました!」
「降りるとき、お靴と傘、忘れないでね!」再びヤダ子ちゃんを覗き込むと
相変わらずポテトをモグモグしながら2回頷き、そのパッチリお目々で電車を降りる私を見送ってくれました。

子供って、ママを困らせながら
少しずつ、あっと言う間に大きくなっていくんですねー。

yume夢

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