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これ以上何が欲しいっていうの?

わたしにとっての「書く」ことって結局こんなものだったの?と数え切れないくらい熱にうなされながら自分に失望していた。書くことが好きだと思っていたのに。日常に潜んでいるふとした感覚を静かに拾い集めていく作業が好きだった。朝の静けさに身を任せて、とりとめもないことを書き連ねていく。昨日読んだばかりの本から芽吹く緑のようにさわさわと広がっていく疑問と好奇心。そんな感覚が好きだったはず。それがわたしの日常であって1日の中の楽しみであって静かにわたしの中に潜り込んで取り込んだすべてを丁寧に咀嚼してそしてわたしの心に撒いていくのが生きていくことだった。

気づけば早朝から始まる仕事と大学の課題の数々とあまり気の乗らない人付き合いとSNSに流れていく写真や文章の断片をつまみ食いして気づけば夜になって寝て起きてまたその繰り返しだった。感覚は鈍りうまく世界を感じることができなくなっていた。時間をかけて物事をこなすのに罪悪感とか焦燥感が募りいかにすべてを効率よくこなすか、うまくスケジュールに当てはめていけばいいかを考えることに精一杯になっていた。外に出て刺激を受けなければ書くことがないと思っていた。もっと世界を広くしないとという切迫感でわたしの心と体はパンク寸前だった。

いつも倒れてから気づくみたい。
もう手遅れ、起こっちゃったよねっていうところでわたしは強制的に動きを止められる。そして夢から目が覚めたみたいに、いままでわたしが自分にしていたことに気がつく。体は疲れ果ててまともに文章は書けず機械的に仕事と日常をこなしていた。立ち止まって深呼吸したり、緑を凝視したり、空をぼーっと眺めたり、ただ座ったり。そんな世界があったことをすっかり忘れてしまっていた。

緊急に駆け込んだ時、わたしの頭は真っ二つに割られてその破片をまた粉々に割っていくような痛みに襲われていた。体に水分は残っていないのに痛みと絶望で涙が出てきた。大学の学期末で課題は山積み。やることがたくさんあるのになんでこんなタイミングで。自分に対して絶望してしまった。

家に帰って平日の真昼間に何もできずただ天井を眺めていた。
なんて非生産的な時間なんだろう。あれもこれもしないといけない。
痛みの残るわたしの頭はそんなことばかり考えていた。
この時間は何も生み出していなくてわたしはただここの横になって何もしていない。社会に貢献していないし周りに迷惑しかかけていない。一体わたしが生きていることってなんなんだろう。そんなことしか考えられなかった。


母から電話があった。
覚えてる?去年は交通事故にあったでしょ。
その前の年は一週間以上熱が下がらなくて。
いつかは新宿で倒れて救急車で運ばれたんだよ。
ねえいつになったら気がつくの?って
もう忘れたの?って

厳しいことを言われてその時はなんかよくわからない怒りが湧いてきて、わたしの今の状況ちっとも理解していないからそんなことが言えるんだって電話を一方的に切ってしまった。

しばらく横になって考えていた。
やっぱりなんかモヤモヤしていた。わたしの人生を生きているわけじゃないから勝手なことが言えるんだよと思ってイライラしていた。

あとから母からまたメッセージが来ていた。

mugihoに怒ってるとか感謝して欲しいとか思ってるんじゃないからね。mugihoが人生を楽しめたらいいなって心から思ってるだけだから。いつも本当に応援してるよただそれだけ。周りの人もみんなただmugihoに協力したいだけだよ。それを素直にただ受け取ればいいだけ難しく考える必要はないよ

涙が止まらなかった。

病気になって何かをやらかしてしまう度にわたしは周りに迷惑をかけながら申し訳ない気持ちと自分の無力さと存在の意味について考えていた。どうしたら次失敗しないか。どうしたらもっとうまく生きられるか。そんなことばかり考えていた。あんなに好きだった書くこともどうしたらうまく書けるか、人から読まれるかって考えていた。わたしにとっての唯一の逃げ場でありブレーキであった文章はわたしの間違った生き方と考え方を促すツールになっていた。


結局わたしは「自分」のことしか考えていなかったのだ。
わたしが社会からどう見られるかとか。大学の自分の成績とか。自分がいかにうまく人生をこなしていけるかとか。一見人のために見えても結局は全部自分の「得」に回帰するようにすべてをコントロールしようとしていた。コントロールできないことまでもすべてなんとかしようとしていた。

倒れる度にわたしは途方もない迷惑を周りの人たちにかけている。
わたしは気がつけていなかった。もういい加減気づきなさいよって。
あなたの周りにはこんなにも手を差し伸べようとしてくれている人たちがいる。
信じられない、わたしにはわたししか頼れる人がいない。
そんなことないでしょ、もっと上を向いてちゃんと世界を見なさい。
こんなにもたくさんの人たちがあなたに言葉と愛と存在を注いでくれている。
これ以上何が欲しいっていうの?そんな声が聞こえてきた。

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