犬や猫に_プラスの言葉を__2_

犬の無麻酔歯石除去に関して、一人の獣医師として思うこと

最近、Twitterで犬の無麻酔歯石除去に関することが時々流れてきます。
獣医師アカウントの方も何人かフォローしているので、その方たちが注意喚起としてリツイートしていることで、無麻酔歯石除去に関して知りました。

わたしが勤務していた動物病院では、歯石除去は麻酔をかけて行うもの、麻酔をかけずに行うことはしないという方針でした。
多くの動物病院がそうだと思いますし、大学でも無麻酔でやることは教えないと思うので、わたしも麻酔をかけるのが当たり前だと思っていました。

そして、Twitterで知った無麻酔歯石除去。

どこかの動物病院の獣医がやっていることなんだろうなぁと思っていましたが、獣医師ではない無資格者がやっているということに驚きました。
(一部の獣医師も無麻酔歯石除去をやっているようですね。)
ドッグハイジニストというどこかの協会の認定(100万円ほど)を受けた人がやっているようです。

いろいろ思うところがあったので、つらつらとわたしの考えを書いてみようかと思います。

・8年動物病院で勤務獣医師をしていた
・麻酔中に命を落としてしまった患者もいる(原因は麻酔だけではない)
・犬ではないけど、ウサギの臼歯の歯切りで無麻酔によるトラブルを起こしてしまったことがある(保定の問題もあるが、責任はすべて獣医師にある)
・先天的な脳の異常があることを理由に他院では麻酔をかけることを断られた犬の歯石除去も行ったことがある(インフォームをしっかり行い同意の上、処置を行った)

わたし自身、それなりにヒヤリとすること、今でも忘れられない経験をし、覚悟を決めて処置を行ってきたこともあります。
何十年も獣医をやっている人に比べたら経験は少ないですが、一人の獣医師として少し意見を述べていきます。

まず、noteにこのことを書こうと思った最初の理由は、この記事です。▼

この記事がTwitterのタイムラインで流れてきたので、気になって開いてみました。
ものすごく長文の記事なのですが、最後まで読んでしまいました。
途中で泣けてきました。
そして、いろいろなところに問題点があるなと感じました。
今回は、この記事には詳しく触れませんが、愛犬家の方は時間がある時に一度読んでみるといいですよ。


では、無麻酔で歯石除去を行うことのリスクとは。

そもそも、麻酔をかけることは、動物を不動化、恐怖などのストレス軽減、痛みの軽減(麻酔薬の種類、鎮痛薬の使用の有無もあり)の目的があります。
つまり、麻酔をかけ、動物が動かなくすることで、必要のないケガをしなくて済む、スムーズに処置を行える、正確な検査や処置を行える、動物の恐怖などのストレスを軽減することができるというメリットがあります。

それでは、無麻酔のリスクとは。

歯石除去の場合、麻酔をかけずに行うリスクについて、普通の人が考えることは、動物が暴れることでスケーラーという器具によるケガを思い浮かべることが多いでしょう。
ただ、それだけではないんです。
暴れることで、チアノーゼ(酸素不足)、熱中症、窒息、誤嚥、顎の骨折など。
そして、無麻酔で行われる歯石除去の場合、表面の歯石しか取らず、歯周ポケットは放置、研磨をしない、抜歯が必要な歯を抜くことができないという中途半端な処置しかできないこともリスクでしょう。
研磨もしないので、その後歯石がより付きやすくなります。
(これがリピーターの獲得につながるかと思うと、ある意味恐ろしいビジネスだなと思います。)

抜歯が必要な歯を残したままだと、犬にとっては処置後も痛みは続くことになるし、おそらく処置中も痛みを生じているのではと考えます。
動物医療がなるべく痛みをなくすように治療しようという方向に進んでいるのに、この処置はこれに反してますね(まぁ、これは治療とは言えないですが。)

さらに、このような処置を行う人たちが、どれほどリスク予想をしているかということ。
歯石がひどくなる犬って、それなりの年齢になっているこが多いです。
それなりの年齢になっているってことは、何かしら病気を持っている可能性があるのかもしれません。
例えば、パグやフレンチブルドッグのような短頭種、かなり高齢、すごく太っているとかなら動物医療に携わったことのある人ならリスクが分かるとは思いますが。
そうではない犬たち。大人しそう、何もなさそうに見えて実は何か病気を持っている可能性もあります。
その判断ができない、何かあった時にすぐ対処できる能力がない場合は、無麻酔の歯石除去なんてやるべきじゃないんですよね。
30分くらいの処置らしいのですが、30分も犬が抑えつけられて処置されるってかなりのストレスです。
ただ抵抗できずに我慢しているだけのこともあるので、その場では良くても、家に帰ってから何がトラブルが起きないとは言い切れないですよね。

わたし自身、犬ではないですが、ウサギでトラブルを起こしたことがあります。
ウサギの歯は犬や猫と違って、ずっと伸び続けます。
牧草などの草を食べることで、上下の歯をすり合わせ、歯が削れて伸びないようになっているのですが、食事内容の問題などにより、歯が削れずに伸びてしまうことがあります。
伸びた歯は口の粘膜を傷つけてしまい、痛みが出てしまうので、そうなるとウサギはごはんを食べなくなってしまうので、歯を切ることが必要になるのです。
このウサギの歯切りに関しては、麻酔をかけて行う場合、かけて行わない場合とあまり統一されておらず、わたしの勤務先でも状況に応じて獣医師ごとに判断していました。
どちらかというと麻酔をかけずに行う先生が多かったので、わたしも最初の頃は麻酔なしで行うことが多かったです。
ただ、やっぱり麻酔なしの場合は、スムーズに処置ができるかはウサギ自身の性格と保定する看護師さんの能力に左右されました。
そして、麻酔をかけずに歯の処置をしようとしたウサギが暴れてしまったことで腰を痛めてしまったことがありました。
それ以来、臼歯の歯切りは麻酔をかけることを徹底しました。
麻酔をかけた方が不要な事故が起こらない、歯をしっかりチェックでき、処置も確実性が増す、ウサギ自身のストレスも少なくて済むからです。

ウサギの歯切りと犬の歯石除去とではちょっと意味合いが違うかもしれませんが、動物の場合、必要なときはちゃんと麻酔をかけないと余計なリスクが生じます。
麻酔の負担を犬にかけずに歯石を取りたいという飼い主のニーズに対し、ドッグハイジニストという人たちが次々と誕生し、上記のブログの飼い主のような悲しい思いをする人が増えないことを願いたいです。

理想は、子犬の頃から飼い主が歯に触ることに慣れること、歯磨きができるように慣れていくことです。
すでに成犬で歯石がひどい場合は、獣医師に診せること。
歯科が得意な獣医師を見つけること、信用できる獣医師を見つけることです。
麻酔をかけてしっかりと歯の処置を行ってもらい、その後はもう一度歯磨き(歯を触るところからスタート)に挑戦すること。
グリニーズなどの歯磨きおやつも併用してもいいです。
定期的に健康診断も受けて、歯石除去も必要なら定期的に行ってもらうこと。

思ったことをつらつら書いてしまったので、まとまりもなく、リスクとか必要なことが抜けているかもしれないですが・・・。
やっぱり無麻酔の歯石除去はおかしいところがいろいろとあるので、少しでも何か発信しなきゃと思いnoteにつづりました。

獣医師に限らず、いろんな方の意見が聞いてみたいなと思いました。

(あるホームページの動画に、猫の処置も載っていたのですが、明らかに猫は嫌がっていて見ていて嫌な気分になりました。)

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