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- - - 8× キリトリ - - - 欠片

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映す。キリトル。 風に吹かれてシャッターを切る。 写真と言葉の融合する実験。 ✜ すてきなイラストに言葉をつけたりもします ✜
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#写真

光の存在

いつも遠くにばかり光を見ていた。 希望はいつだって先の先の方にしかないような気がしていた。 中間の長い路には、散りばめられたものがあるのに それには目もくれず 暗がりにしかすぎず こちら側には何も映っていなかった。 自分の存在にさえ 見えないのか 見ようとしないのか 見たくないのか そんなこと一つ答えを出さないままに生きていた。 ただ自分の中に何も灯っていないのかというと 決してそうではない。 小さなロウソクの炎が、ちらちらと横切る。 別につかまえなくてもいい

5.5 ASL

夏が過ぎ、夏のはじまりを思い起こす。 はしゃいでいた光輝く時。 海沿いの道をバスに揺られて帰る。 旅の終わりだ。 雨降りの隙間で、ただ波間を見ている。 5.5は海抜を意味するのだろうと 海を知らない者は思うだけだ。 海抜は above sea level というらしい。 レンズが映り込む窓に向かって さよならと口ずさむ。声に出さずに心の中だけで。 会ったばかりだけれど どうしても、さよならは来てしまう。

消えゆくまえに

雨が降りはじめたのに、鳥の声が止まない。 私から姿を確かめることはできないが 鳥たちは何処で鳴いているのだろう。 身を隠せる葉陰があるのだろうか。 私は籠の中の一羽の鳥だ。 ずっとひとりぼっちで生きている。 最低限の粒を与えられ、心臓は動いている。 聴こえてくる鳥の声は一羽ではない。 多種多彩のそれらは きっと姿も飛び方も異なるものなのだろう。 羽の色も輝いているに違いない。 私はきっと以前にも鳥だった。 大空を飛んでいた微かな記憶を元に その頃すれ違った仲間たちを思

リボン🎀

ここにリボンを結んだ人のことを考えてる。 誰に渡すプレゼントなのかと。 花の代わりに咲かせたのだろうかと。 🎀 心を打たれる瞬間や、すきだなぁとしみじみすることが あちこちでたくさん起こると 言葉は追いつかなくて ただ自分だけのコレクションになっていく。 🎀 ほんとは君に伝えたいけど 上手に受け渡せはしないだろう。 心のまま透明ボックスに入れて届けられたらいいのにな。

雪椿

雪を載せた椿を見た途端 君を思い出した 冬になるとすぐに真っ赤になる頬 好んでつけていた赤い髪飾り はしゃいで雪を掬った赤いミトン 君と繋げるモチーフが色々あるけれど 何よりも この雪に似合う可憐さが ひときわ僕に訴えかけてきたようで あの街に残してきた君を思い出して 勝手に浸っている僕を許してほしい

シグナル

記憶というのは実に曖昧で なのに強烈に覚えていることがある でも、そのシーンを誰も覚えていない時 それは現実にはなかったことなのかもしれない 証明できないことの積み重ねの日々 夜に滲んだ信号に似て ずっとチカチカして気になる 🚥 たとえば酔って歩いた、覚束ない記憶 どこを辿ったのか定かではないけれど 身体だけはどこかに心ごと運んでいく 人によって覚えているシーンが違うのは当たり前で 見た角度だって、聞こえた声だって違うんだ あの時君は、ふと違う人を見ていたかもし

夏森キノコ

涼しい風が吹くからここに避難したんだ、ぼく。 君の椅子になるためじゃないんだよ。 呑気にアイス食べてるとか、勘弁してよ、もう。 足ばたばたすると、くすぐったい! やだ、もぉーーー。 夕立がやってきて、滝の修行みたいに 雨に打たれるスケジュールだったのに 君が大きな葉っぱを傘にして座ってるから ぼくは、何故だか守られたみたいになってしまって。 でも、お礼なんか言わないからね! ああ、君。いくらちっちゃいからって横になるのはやめて。 ぼくは君のベッドじゃないよ。 他の

君の香り

内緒で、君がつけているオード・パルファムの小瓶を買った。 夜、ほんの一滴をつけるだけで、君が傍にいるみたい。 包まれて、眠りにつく。 はじめて夜を過ごした時 君は意外な顔をして、私の髪に顔をうずめた。 「この匂い、シャンプーだったんだね。これすきなんだ」 正確にはね、シャンプーじゃなくてトリートメントだよ。 ホワイトシトラス。多分、ジャスミンの花の香り。 私もお気に入りだったから、「すき」と言われて嬉しくて はしゃいでいっぱいキスしたね、あの夜。 何度も何度も、互いの腕

欠落

昔から私は 寂しさからくる飢餓が 何かを生み出すような気がしていて しあわせを鈍化のように思っていたところがあります。 満たされないから、何か書けるって思っていた。 その欠落を補完するために 泉のように言葉が出てくるのが文学であると。 常に何かを探し続けて 巡り巡って勝手に疲れて 迷路の中をただひたすらに歩き続けるように。 昔の自分を思い出しながら 今は、ゆるく温いとこに停滞しているなと感じます。

七夕夜、再び 七夕③

また七夕がやって来る。応答せよ。 惑星探査に向かったままのロケットは、果たして何処にいるだろう。 最早、君が本当にいたのかどうかも、不確かだ。 何かの陰謀で、少なくともあの時の自分に 何か齎(もたら)すために用意された罠。 1年に1度は、想い返してしまう。 七月が来ると思っただけで 六月後半から去来するものに気づかぬ振りはできない。 涙を流す写真の中。 映ってなくても、揺れて涙のラインを描く。 何を撮っても、同じように。 わざと揺らすことなく、勝手に描かれる水彩画。

日向の紫陽花

雨の露にこそ似合う紫陽花が、日光に晒されてる。 近寄って、日傘を差しかけてみる。 そんな子たちは、太陽に向かってくすぐったそうに笑うから なかなかピントが合わないよ。 お願い、ちょっとだけ止まってみて。 鎌倉、浄妙寺にて、六月。 ここの紫陽花は種類が多いんだ。 青、紫、ピンク、白。 色見本のハンカチに染めたいような、和の色が揺れている。 日向の色、日影の色、沈む色。 川にひと片、落ちて流れたのなら 誰かが待ち構えて掬って、手のひらに並べるの。 まるで、貝殻拾いのようにね

刺繍の白花びら

アナベルという名の、紫陽花のなかまがいるのです。 白いレースの刺繍のハンカチーフのような。 小さな花びらの集いは、みっつだったり、よっつだったり。 カリフラワーに襲われそうな、もこもこ具合。 泡泡のシャボンみたいに、いたずらなクリーム色。 小さなどうぶつだったら、潜って遊んでみたくなる。 くも、メレンゲ、ふかふかわたあめ! 和の紫陽花は、あまり香りがしないのに このアナベルはいい香りがする。 えっとね、欧羅巴の匂いなの。 秘密の香水、夕方の気配、待ち合わせ。 夢の中の少

春の種を落とす。

はらはら、ちるちる。 桜の木の下で、一人佇み、あなたを想う。 この桜並木を、あなたと腕を組んで歩けたら。 そんな儚い望みが叶ってしまった、あの日の私を想う。 桜にはあらゆる色の感情があって、圧倒的なんだ。 艶やかで、華やかな反面 地面に吸い込まれそうな、磁場のようなチカラが存在する。 やわらかく包んでくれるとの気の迷いに 危うく水面に叩かれ、共にただ黙って流されていく。 やさしそうでいて、強く、抗えない。 いつだってそうだった。 🌸 桜を見ると、今でも    

夏と戯れる。

レィディ。 君に溶けたい。 ぼくの、海。 ラムネの瓶のビー玉のように カチリと閉じ込められても 一生、君の青い夢の中なら、ぼくは本望だ。 ぼくは、君を弾く泡になる。 泡になって、もうこの夏に戻れなくても、構わない。 シュワー 。゜。 ゜。