読者が偏る(一極集中する)ことの問題とリスク
以前、とある小説投稿サイトのランキングで、TOP10内が全て「ざまぁ」要素ありの小説だったことがあり、「ここまで偏るものなのか」と引いたことがあります(「ざまぁ」に引いているわけではありません。偏りに引いているのです)。
また、とあるサイトの新着小説をチェックしていたところ、恋愛ファンタジー系の小説には次々に「お気に入り」が付いていくのに、それ以外のジャンルの小説には一向に付かず、「ここまで極端なのか…」と、やはり引きました(恋愛ファンタジー好きに引いているわけではありません、それ以外のジャンルが読まれていないことに引いているのです)。
人にはそれぞれ好みがあり、自分の好きなものを読んで、興味のないものは読まないというのは、仕方のないことです。
しかし、特定の要素・ジャンルにばかり読者が集まり、それ以外の部分に読者が集まらない――読者に偏りが出る(多様性が無い)ことには、大いに問題があります。
それは、ジャンル自体が「過疎」で「人がいない」なら、どんなに作者が頑張っても、読んでもらえない・評価してもらえないということです。
そして読まれたい・評価されたい作者は、どんどん「人気ジャンル」に移っていき、そこだけがさらに栄え、他は衰退するという「悪循環」が生まれます。
(読まれない・評価されないジャンルの作者の中には、諦めて執筆をやめてしまう人もいるかも知れません。)
結果、サイト全体が「ざっと見て、似たような作品(同じジャンル)ばかり」という事態が起こるのです。
ジャンルに「人気」が出て栄える…というのは、一見、そのジャンルの作者にとっては「良いこと」のように見えますが…とんでもありません。
似たような作品ばかりで「飽和状態」になれば、競争は激化する一方、読者に飽きられるリスクも増すのです。
同じジャンルの作品が増えれば増えるほど、ネタは掘り尽くされ、「どれを読んでも同じようなネタ」ということになりかねません。
「需要<供給」で供給過多になれば、あぶれる作品も多く出てくることでしょう。
それに、10や20の作品の中から読む作品を選ぶなら、読者がじっくり時間をかけて選ぶことも可能でしょうが…
作品数が数百、数千ともなると、選ぶ側も「パッと見」で選んだり、すぐに見切りをつけたりと、作者にとって「あまり嬉しくない選び方」をされてしまうかも知れません。
それに、「サイトが特定のジャンルに独占されている」状態は、さらに読者層を狭めます。
そもそも小説投稿サイトというものには、「メジャーじゃない」ジャンル、ニッチなジャンルは探しにくいという弱点があります。
(ランキングは分かりやすく目立つ所にある一方、検索システムはあまり優秀ではありませんので…。)
ランキング上位に固まっているような「人気ジャンル」を求めて来た読者なら、そのままサイトに通ってくれるでしょう。
しかし、そんな人気ジャンル「じゃない」ものを求めて来た読者なら…
欲しい作品が見つからず、自分の求めているもの「じゃない」小説ばかり目につく…そんな状態だったとしたら…諦めてサイトを去ってしまうのではないでしょうか?
結果、作品も「そのジャンルばかり」なら、読者も「そのジャンル好きばかり」という状態が形成されてしまうのではないかと…。
この状態の最大のリスクは「もしもそのジャンルが廃れた(飽きられた)なら、サイト全体も廃れてしまう」ということです。
どんな人気もブームも、慣れられて新鮮味が無くなれば、やがては飽きられてしまうものです。
(それが何ヶ月・何年・何十年のスパンで起きるのかは、モノによるのでしょうが…。)
人気芸人が、露出が増えすぎたがために飽きられて一発屋に終わることがあるように、モノ(作品数)が増え過ぎるのは危険な兆候なのではないかと…。
タピオカもマリトッツォも、一時は「どこもかしこもそればかり」だったのに、気づけばブームは下火…
小説ジャンルでも、それが起きないとは限りません。
(…というか「少女小説の歴史」などを見るに、ブームは必ず変遷していくもののような気がします。↓)
<関連記事(別ブログ):少女小説の傾向と歴史を学ぶのに最適な1冊(コバルト文庫で辿る少女小説変遷史・ブックレビュー)>
(存続の鍵は、そのジャンルが読者に飽きられる前に「次なるブーム」に上手く移行していけるかどうか、なのですが…。作者がどんなに「新しい何か」を開拓しても、読者がそちらに行かなければ意味がありません。読者を狭めてしまうと、そんな「新しいジャンルにチャレンジしてくれる読者」も現れにくくなるかも知れません。)
それと、もう1つ心配なのが…
同じ嗜好の人間ばかりが集まり、特定のジャンルばかりをもてはやしていると、「井の中の蛙」状態になってしまうのではないか…ということです。
井戸の外ではいつの間にか人気が移り変わり、全く別のジャンルが台頭してきているのに、井戸の中の蛙たちはまるで気づかない…
そうして世間に置いていかれてしまうリスクもあるのではないかと…。
井戸の中に蛙がたくさんいるうちは、それでも何とかなるのでしょうが…
ユーザーというものは、ご新規さんを入れていかないと自然減退していくものです。
そして、いつの間にか「外」での人気がまるで違うものになってしまっていたなら、ご新規さんの入りも見込めません。
以上のことから、個人的に、小説投稿サイトは「特定のジャンルに偏る」より、ある程度の「多様性」があった方が良いと思っています。
(思ったところで、どうにもならないのでしょうが…。)
その方が「それぞれのジャンルでの人気作品」という感じで、報われる作者も増えるでしょうし…
(そもそも、「人気ジャンルの作品」を書いて人気が出るより、「その人が本当に書きたい作品」で報われる方が、作者にとって幸せだと思うのです。)
ランキングの上位ジャンルがバラけていたなら、初見のユーザーも「あぁ、このサイトには(特定のジャンルだけでなく)いろいろなジャンルが取り揃えられているのだな」と思ってくれるのではないでしょうか。
つい最近、某小説投稿サイトさんが新規投稿作品を「男性向け」「女性向け」で区別するようになり、それぞれのランキングを表示するようになりましたが…(しかもデフォルトが男性向けランキングになっている)
それはこんな「ランキング上位が特定のジャンルに偏る」ことを防ぐためなのかも知れないな…などと勝手に考察しています。
(ただ、これ「男性にも女性にも読んでもらいたい物語」はどう分類したら良いのかですとか、いろいろ問題がありますので、初めて知った時にはユーザーの身ながらハラハラしたのですが…。)
小説投稿サイトの場合、「恋愛ファンタジー」「中世ヨーロッパ的な世界観」という大雑把なカテゴリーのみならず「ざまぁ」「婚約破棄」「悪役令嬢」etc…展開や登場人物に至るまで「偏り」ができている気がするあたり、より恐ろしさを感じます。
(さらに言えば、最近は「恋愛カテゴリー」「ファンタジーカテゴリー」のみならず、他のカテゴリーも徐々に浸食されてきている感が…。)
SNSのトレンドランキングなどでは、もっと様々なジャンル・要素が入り乱れて多様性があるのに、なぜ小説投稿サイトでは偏りができやすいのか…今後もっと深く考察していく必要を感じています。
(そして同時に、幸せな「多様性」を実現する方法を探れたら良いな…と。)
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