書評 地平線を追いかけて満員電車を降りてみた 紀里谷和明 何者かにならなくてはならないという宗教は、とりあえず捨ててしまおう。
紀里谷さんというと、宇多田ヒカルの元旦那で映画監督だという発想になる。
彼の「CASSHERN」という映画が好きだ。
その映像美と世界観の斬新さから「意味不明」などと揶揄されたが・・・。
何か1つ突出した輝きを放つ、そういう作品を私は良しと思う。
紀里谷和明は才能の人なのだ。
本書は、そんな紀里谷さんの描いた小説?、自己啓発本?、哲学書?。
とにかく最高におもしろかった。
人は何者かにならなければならないと思っている。
例えば、金持ちになりたいとか。主演女優になりたいとか。社長になりたい。夢はそれぞれだが、誰しも何者かにならなければならないと思っている。
本書のモチーフは・・・
そもそもわたしたちは、自分でないものになる必要があるのだろうか?
心がもやもやするのは・・・
自分でないものにならなければいけないと思い込まされた結果、本来の自分でないものになってしまったから・・・ではないのか?
少し哲学的ですが、これは真理だと思います。
何者かにならなくてはならない
この制約を捨てると楽になれるのです。
例えば、顧客に喜ばれる。顧客満足度を高めた商品開発をするとします。マーケティングして、こういうものがウケると事前リサーチし提案します。
それは顧客にOKを貰えるかもしれません。しかし、本当に私が作りたかったモノなのでしょうか?。
結果を出さなくてはいけないという制約の元でやった仕事だと思うのです。
業界と言われるところは、そういう制約がたくさんあるところだと著者は言っています。
そんな中で、自分の求めている子供の心。大人的なたて前でなく、心からの欲求に従い自分の好きなもの。やりたいことをやるのが、本当のアーティストなのだそうです。
重要なのは、あなたが何を欲しているか?
です。
最初に出てきた翔太と言う人は「金持ちになりたい」と言ってました。
自分に問い詰めると、どうも「うらやましがられたい」というWordが出てくるのです。
さらに突き詰めると「他人に馬鹿にされたくない」となりました。
つまり、他者と比較して物事の価値判断をしていたのです。
それだと本当に欲しているものが見えてきません。
翔太には、昔、友達に殴られて馬鹿にされた過去がありました。
そんな彼に支配人(紀里谷さん)が問う
殴られたことによって、本当のあなた自身の価値は変わったのですか?
人に何を言われても、されても自分の本質的な価値は変わらない。
他者からの扱いがどうたらとか意味なんてありません。
人に馬鹿にされたくない。他人から自分はどう見える?。そういう事に心を囚われるから虚栄心が発生するのです。
誰も、俺のことなんか見てない。
見てないのだ。
世間様なんてどこにもいないのです。
自分の人生を他人の視線を気にして決めたり、他者の期待に応えようとするのは虚しいだけなのです。
優子という女優の話しで、肩書について書かれていました。
「私は有名女優になりたい」
肩書は目標とされることが多いのですが・・・
ただ医者になりたいのか、医者になって何がしたいのか?
そういう議論になります。
なることがゴールなのですか?
心には、大人の心と子供の心があるそうです。
大人の心・・・何かを達成するための道具
子供の心・・・感情に根ざした・・・
大人になれと言われることかありますが、どうして子供の心を否定するのか?
どうして、今の自分を否定しなきゃならないのか?
背景にある思想は何者かにならなくてはならないという思想です。
「ねば」、「べき」という言葉は、まさに「雑音」です。
そんなものに、あえてなる必要はないのです。
わざわざ自分を卑下して否定する必要もないのです。
人生の幸福は感動の総量で決める。
肩書やらとは関係ないのです。
この言葉、すごく共感しました。まさしく、その通りです。
心が揺さぶられた瞬間。そこに幸せが埋没しているのです。
「やりたいとおもってしまったこと」が何かを突き詰め、ただそれを行動に移す、迷ったらまた問いかけて、行動する。人生って、ただ単純にその連続でいい
信じるもののためなら飢え死にしなさい
と著者は言っている。ようするに「やりたいこと」を死に物狂いでやれということです。
本当の芸術は・・・
あなたには、自分の生命をかけてまで、世に送り出したいものがありますか?
才能がないとか言い訳なんかしている場合ではありません。
あなたは本当に自分が描きたかった絵を描いたことがあるのですか?
なら成功は意味がないのか?
それは「状態」にすぎない。
意味があるのは「自由」であることですと著者は言う。
あなた自身をごまかさず、嘘をつかないでいられることが「自由」
あなたが「何を見たいのか?」それが最初でなくては意味がない。
成功や権威なんて幻のようなものです。
幻のようなものに、いちいち自分の価値を左右されてしまうなんて、あまりにもバカバカしい
読後感は少しモヤモヤがありますが良かったです。
この本は紀里谷さんでないと書けない本だと思います。
期待値以上の良書でした。
2020 9/25
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