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書評 ここは退屈迎えに来て 山内マリコ ローカル地域に住む人の心の叫びが凝縮されていた。

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一昔前に描かれていた地方都市のイメージと
本作のイメージするところのローカルは根本的に違う。
田舎で農業しているような・・・ところではなく
マクドナルドやユニクロや無印とかがある
中途半端に田舎な都市のことなのだ。
それなりに豊かで平和でのん気
そこそこ楽しい日常・・・

そこで「退屈だから、誰か迎えに来てよ」と叫んでいる
女の子たちの叫びを集めた短編集です。

16になったら処女を捨てるのが当たり前になっている女子高生
大人になったら落ち着いて、ちゃんと仕事につくという価値観
28才過ぎたら自分の価値が下がるという女性評価
根底にあるのが、女は男に食わせて貰うという旧式な価値観であり
だから、男も男であろうと必死に無理をし
女も商品価値の高いうちに早く結婚しようとする。

30近くで東京で夢破れて戻ってきた女子は
昔、かっこよかった椎名の記憶を美化して覚えていて
再会しがっくりする。

その感覚を表現したこの場面がいい。

閉園のアナウンスが流れる夕暮れの遊園地。海で遊んだ帰りの電車の中・・・、いつも身を切られるような後味があった。あまりにも楽しいと、その後でものすごく辛い気持ちを味わうハメになる。

 青春の良い思い出とは、こういう風なものであり、大人になった昔カッコよかった椎名は、自動車教習所のだっさい教官であり子供までいたのだった。

 高校時代アイドルとして活躍して挫折し戻ってきた女の子と、その友だち。この物語もローカル女子っぽい。結婚をし現状打破を狙うが28才超えたら価値が下がると聞かされて、焦っておっさんの金持ちばかり狙って結婚しようとする。そして、ありがちな小姑との確執、会社の事務させられて・・・、セックスレス。ローカルな世界に組み込まれていく女性たちは悲しい。

女の子はみんな、誰だって、やがてこんな風になるってくことを。結局は同じ一本の道しかないってことを。なりたくないと言っていたものに、やがてなりたがってるんだってことを。

 ローカルでは、女は男と結婚することでしか幸せになれないという。その遅れた感覚。女性が、まだまだ、自己実現できない現状と、はなから、そんなことを考えない人たちが圧倒的多数であるということ。それがローカル。退屈というか、絶望だ。

 夢を叶えようと東京や大阪に出るには出るが挫折し、戻ってくる。就職先は限定される。しかたない、だから適当にある仕事につく・・・。

 そんな安易な椎名君に、こんなアドバイスを・・・

やりたくない仕事を続けていると、自分がなりたくなかったような人間に本当になっちゃうよ

このシーン、グッときた。

 女子高生とハゲたおっさんの恋愛の話し。このおっさんが、自分はそろそろ38才なんで親がどうたら、結婚しないと・・・と好きでもない人と見合いすると言って、女子高生をふるんだけど・・・。

38才だからといって、38才らしい人生を送らなくてはと思っている彼を、心底気の毒に思った。なんて凡庸。世俗的すぎて、こっちが悲しくなる。

典型的な田舎の風景。
ローカルの息苦しさが伝わってくる。

2021 年 5月9日



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