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感想 エミリの小さな包丁  森沢 明夫  失恋し人生に絶望した女の子が田舎で癒やされる話し。魚料理が美味しそう。思わずヨダレが出る。

ダウンロード - 2022-02-22T114818.798

都会で疲れ果てたエミリ
失恋し人間不信
そんな彼女の逃亡先は、15年も音信不通にしていた祖父のところ
祖父は漁村で風鈴を作り暮らしている80歳

祖父は高齢だが料理上手だ。
魚料理が絶品だ。
死んだ祖母に贈られたという包丁を小さくなるまで丁寧に研いで使っている。
空気は新鮮で、好奇心旺盛ではあるが人も優しい
そこでエミリは癒やされていく

本書で注目すべきは祖父だ。
この人は人格者であり、数々の名言を口にする。

これは森沢さんの作品の特徴でもある。

「狙った魚なんてのは、釣れない方がふつうだ。人生と同じだな」

この言葉の意味は奥深い。
人生は思ったようにはいかない。
それを魚釣りに例えて孫に教えているのだ。
まさしく、そのとおり。

人は幸せになりたと思っている。
幸せになろうともがき苦しむ
エミリもそうだった。
そんな彼女に・・・

「幸せになることより、満足することの方が大事だよ」

1つ1つの満足という点を結びつけたら幸せという上昇曲線ができるのだ。
目からウロコの名言である。

エミリはおじいさんと暮らしていて驚くことばかりだった。
テレビもないエアコンもないのだ。

おじいちゃんは、わたしがこれまで抱いてきた価値観とは、まったく別の世界で生きている。 しかも、とても満足げに。 そのことを確信したとき、わたしはつくづく思った。 常識って、なんだろう?
そもそも、常識なんてものは、誰かが勝手に作り出した「幻の縄」のようなものなのかも知れない。わたしたち凡人は、目に見えないその縄に、自由な思考と心をがんじがらめに縛られていることに気づかぬまま、漠然と息苦しい日々を過ごしているのではないだろうか。

この目に見えない常識に僕たちは支配されている。
高収入じゃなきゃ幸せになれないとか
容姿端麗でなきゃ幸せになれないとか
いろいろと決めつけているが
その常識が、このおじいさんの前では、まったく意味をなさないのが面白い。

そもそも常識って、人が勝手に決めた暗黙の思い込みではないのかと
ふと、僕は思った。
幸せにも、いくつもの種類がある。
100億使って宇宙にいくよりも、この田舎暮らしのほうが僕には価値がありそうに思う。


エミリは都会で大失敗している。
そんな彼女は絶望的な気分なんだが・・・

でも、あるとき、ふと思ったわけ。過去の失敗に学ばない人間は阿呆だけど、過去の失敗に呪縛されたまま生きている人間はもっと阿呆だよなって。だってさ、もったいないじゃん」 「もったいない?」 「うん。生きてりゃ、誰にだって悪いことは起こるし、だからって、ずっと嫌な気分で生きている必要もないわけじゃん」あのね、人間って、ふたつのことを一度に考えることが出来ない生き物なんだって。だから俺、このブランコに揺られているときだけは、最近あった『小さないいこと』をなるべくたくさん思い出して、そのときの感情をあらためて丁寧に嚙みしめるようにしてたの。幸せを味わっている間は、嫌なことを考えられないから、悪い出来事も忘れていられるわけじゃん」

これはエミリを慰める漁師の男の言葉だ。
彼も結婚に失敗している。
落ち込んだ時、ブランコに乗って気を紛らわしているのだ。


つらいときは、身の回りの小さな幸せを眺めて、いい気分を味わっていればいいんだし

これが彼の幸せになるための方法論
なかなかおもしろいと思いませんか?

「世界は変えられなくても」
「気分を変えることなら出来る!」


エミリの親友の軽口で、彼女が街で不倫をし逃げてきたことがバレて陰口を叩かれるようになる。
そんな彼女に、おじいさんは・・・

「自分の存在価値と、自分の人生の価値は、他人に判断させちゃだめだよ」おじいちゃんは、いつにも増して渋い声で、ゆっくりと話した。「判断は必ず自分で下すことだ。他人の意見は参考程度にしておけばいい」


そう、自分の人生は自分で決める。
誰かの判断に委ねていいわけがない。
気味の人生の主人公は君自身

「考えてごらん。事情を知らない人たちに、エミリとエミリの人生の価値を勝手に判断されて、しかも、エミリがそのいい加減な判断結果に従うような人生を送るハメになるなんて、道理に外れるし、何より気分が悪い」


これは名言だと思った。
何も知らない他人に自分の人生に対する影響力なんて与えていいはずない。
相手にする必要すらない。
好き勝手に言わせておいていい
そんな戯言無視
聞く必要すらない

「心が美しく保たれていること──。日本人ってのは、昔から、その状態こそがいちばん自然で、気分がいい状態だと考えていたんじゃないかな」

いい気分でいるためには、心をきれいにしておくってこと?

「周りを変える必要なんてない。自分の『うら』を変えれば、それがそのまま自分の人生を変えるってことだからな」
この「うら」とは「心」のこと。
「大人も、親も、所詮は人間だ。完璧ではないし、未熟者のまま死ぬんだ」

だから、気にしなくていい。
全員が未熟なんだ。
自分も他人も皆。

「出来損ないも含めて、世の中の人間はすべてが先生だからな」 そう言って、おじいちゃんは小さく微笑んだ。

失敗から学べば良いんだ。
みんな失敗ばかりして生きてるんだから・・・。

失恋をすると目の前が真っ暗になるけれど、その失恋を受け入れた瞬間から、人生そのものが新たにはじまるような気がしてくるから。

過ちを受け入れた瞬間、そこから、また、新しい何かがはじまる。
そこから何かを始めていいんだ。

「わたしは、わたしの人生を創る神様……」


結局は、自分の人生を作るのは自分しかいない。
いつからだって
どこからだって
はじめていいんだ。

「火で熱せられ、水で冷まされ、しかも金槌で叩かれる。そんなつらい工程を経るからこそ、完成した風鈴は見た目も音色も美しくなる」


風鈴職人であるおじいさんの最後のメッセージ
辛い思いをした分だけ、自分の成長につながるのさ・・・
苦労は自分の栄養分
そういうことですよね。

いい本でした。
森沢さんらしい癒やし系、少し説教モード。
自己啓発系ですかね。

2022  6 27 



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