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書評 世界から猫が消えたなら  川村 元気  悪魔との契約で、等価交換として1日の寿命につき、1つのものを世界から消すことになるのだが・・・

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悪魔と契約する話しは、欧米の小説では、よくあるのですが・・・
1日の寿命の対価として、1つのものを世界から消すというのは珍しい。

悪魔が消そうとした電話、映画、時計、猫・・・
これらの物は、人を幸福に導くものである。

病死した母親の言葉がよく出てくる。
主人公は、少しマザコンである。

何かを得るためには、何かを失わなくてはならない

この考えが作者の中に根づいているようである。

電話が消えるパートで、こんな文章がある。

携帯は、その登場からたった20年で、なくてはならないかのように人間を支配している。人は携帯を発明することにより、携帯を持たない不安も同時に発明してしまった。

スマホが人から時間と自由を奪っているのは事実だ。
家にいても、LINEで上司から連絡があったり、SNSのイイねを気にしたり
余計な時間を消費してしまう。

しかし、メリットもある。大切な人に、今、読んだ本や見た映画や体験を話すこともできる。
そういう話しは、世界を変えるのではというほどの興奮を伴うものだ。

文明の機器のマイナス面は多い


僕らは、電話ができることで、すぐつながる便利さを手に入れたが、それと引き換えに相手のことを考えたり、想像したりする時間を失った。


とは言うものの、スマホは幸せになるツールである。
確実に、私はスマホで幸せになっている。

映画を失くすシーンで、映画館に勤務する元恋人と会う。
そのシーンが好きだ。

彼女は、悲しい映画を見た時、その映画をもう一度見るのだそうです。
それは何故か?。
今度は、もしかするとパッピーエンドになっているかもしれないからだそうです。

彼女はとても素敵な女性です。
こういう子、好きです。

猫のところでは、母親の言葉が印象に残った。

人間が猫を飼っているんじゃなくて、猫が人間の傍にいてくれている・・・


そして、家族についても、おもしろい言葉がある。

家族って「ある」ものじゃなかった。家族は「する」ものである。

繰り返すが、彼の寿命の為、悪魔は、この世界から電話、映画、時計を消した。
猫を消す場面で、1日だけ飼い猫がしゃべる。
それも時代劇口調で・・・。
そこで彼の本音を知り、自分の1日と猫の死は等価交換でないと気づく。
彼は自分が死ぬことを選ぶのである。

しかし、彼の1日と電話や映画が等価交換だとは思えない。
映画がなくば、たくさんの人の幸せを消すことになる。
映画館に勤める元恋人は趣味と職を失うのだ。
それは、1日の彼の延命のためにである。
個人の1日と、みんなの幸せは=にはならない。
消してしまったものの大切さを気づかない彼を傲慢と思ってしまう。

この小説は、とても楽しい。
楽に読めるのもいい。

2020 7/5



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