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感想 残月記 小田雅久仁 本屋大賞は逃したが、僕の心に確実に爪痕を残した奇作です。月にまつわる不思議譚。

祝・第43回 吉川英治文学新人賞受賞!

2022年本屋大賞ノミネート!!!

本屋大賞は残念ながら落選でしたが、この作品は読むべき作品だと思います。
ジャンルは幻想小説。ディストピアなのかもしれません。
月にまつわる3つの話しです。

「そして月がふりかえる」
「月景石」
「残月記」


月景石は、死んだ叔母の遺品の石
これを机の中にしまい寝ると悪夢を見るという話し
現実と夢の両方から語り掛けてくるノイズが
何て言っていいのかわからんが不協和音。
これって、どっちが夢でどっちが現実なのとわからなくなっていく。


残月記は、剣道の有段者の木彫りの職人が月昂という病気になる。
これはコロナっぽいが違う。感染すると短命になる。ワクチンみたいなのをうつと延命できる。
この病になると監禁されて施設で暮らすことになる。
利点もあり、これは能力が開花する。
芸術、武力、何でも突出する。狼男のイメージか。
物語の主人公は残月という人。
彼は、グラディエーターにならされる。剣闘士ですね。
絶対的な権力者の首相主催の闘技場で生命がけの戦いを強いられるのです。
そんな彼は、ある事件に巻き込まれて、脱走し山中で木彫りをしながら暮らす
まるで空也みたいにたくさんの作品を作ります。
誰かの見世物にされたり、山で隠遁生活をしたりとしんどいのですが、好きな女ができたり、その人のために、そこの収容所に忍び込んで木彫り作品を置いていったりとなかなか情熱的です。
剣闘士としても頂点に立ち、彫り師としても一流。
この病、それほど悪くないように思えました。

だって、僕たちは才能という点において、何ら、この世界に爪痕なんて残せない。たいていは平凡な給料取りなのですから。僕が死んでも、すぐ代わりはいくらでもいる。その程度の存在です。平均点で生きられるけど、突出した何かはない。それが普通の人です。

残月は、武力でも仏師としても超一流。短命くらい、そんなのいいじゃないかと思ってしまいました。

もう1つの彼の創り出した世界というのか月世界
その冒険物語風なパートも面白いです。

そして月がふりかえる。
この作品は圧倒的に優れた作品。
普通の人だった、ある男が家族でレストランで食事をしてて、トイレから出ると皆、静止画みたいになっている。彼らの視線の先には月が、それはありえないことだが振り返ったのだ。
その瞬間、自分が自分ではなくなる。まったく別な男が自分になり代わり自分はまったくの別人になっているという世界。前の世界と、月が振り返った後の世界、この何とも言えぬ違和感というのか不思議さ。

世界が反転してからの、そのスリリングな展開。一気に最後まで読ませる筆力。とにかく面白くて、これは一読の価値がある作品だと思いました。

2022 4 10



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