見出し画像

書評 アウア・エイジ 岡本 学  恋愛ノスタルなのか、それともミステリーなのか?。芥川賞がとれないのは軸がどちらかわからんからだと思う。

画像1

思いっきりネタバレしています。

友人が一推しの小説が本作である。
まちがいなしに芥川賞だよ、君・・・
と僕が推す遠野遥さんの「破局」をただのオナニー小説と揶揄していたのだが・・・
結果は、本書の落選となった。

理由はわかる。
それは理不尽な部分があるからだ。

映画館でバイトをしていた大学の先生の主人公は20年ぶりにバイトしていた映画館に招待され
ミスミという女性の残していった塔の写真と再会する。

映写機の葬式をあげるから、ぜひ来ないか

これが本書の1行目である。
しびれる。

この映画館の雰囲気は「ニューシネマパラダイス」という映画の世界に似ている。

私は死に至る映写機の、ゴトゴトと荒れ道を走るような音を知っていた。それが鎮座する、裸電球だけが灯った、やわらかなオレンジ色に満ちた薄暗い小部屋を覚えていた。


本書の魅力は技師の裏方の仕事の細かい描写にある。
だが、映画に関しては主人公は詳しくないということで、蘊蓄はさほどなく映画好きとしては少し肩透かしを喰らわされたような感じになる。

そんな彼、映画館に久しぶりにやってきて、過去のノスタルジーな記憶を振り返りながら、彼女との思い出に浸りつつ、彼女の探していた塔を探し出し、そこから彼女の母親の真意を紐解くという作品なのだ。

モチーフは

"人間が生きるということを突き詰めた先は、
伝達なのだ。"

という言葉だ。
彼が好きだったミスミはMYルールを持っていた。
それはいくつかあったが、立ったまま映画を見るとか、早食いとか・・・。
代表的なものは「相手の望みをかなえてあげる」
美人の彼女に「やらしてくれ」と土下座して頼むとやらしてくれる。
そういう人だった。

だが、現実には、そんな女性は存在しない。
愛の女神アプロディーテーでも、それは無理。つまり、無理設定。
そんなの誰でもわかっていることだ。
そんな人間が存在するというのなら、その人は何らかの病だろう。

そのルールは母親の真似をしていただけなのだと探っているうちに判明する。
つまり、死んだ母親を彼女は真似をしていた。
彼女は、母親という形を外部に伝達していたのである。

だが、確かに母親は相手に頼まれたら嫌が言えない人のようだが・・・
何でも来いではなかったと思う。
若い頃の母親は自分で好きな男を選んでいる。
だから不義の子であるミスミを産んだのだ。

その塔の写真には「OUR AGE」という文字が・・・。
それは母親が撮った写真であった。母親は娘に何が言いたかったのか?。
母親の伝達を探ろうと思った。

レールの音を聞きなさい、目をつぶって聞くのよ。

母親の遺言がミスミの中核にある。
だから腹が減ったら飯を食う
相手が切実に「やりたい」と言ってきたら「やらせる」

しかし、このメッセージ前の文字が消えていた
本当は、 ENC OUR AGE 
意味は、勇気づける

人類がどの世代においても全員が絶対的に背負うべき使命は「伝達」である。それは、確かに技術やノウハウや、痛みや教訓がほぼすべてを占めるのかもしれないるでも、伝達すべきもの、そのわきに、申し訳程度でいい、勇気づけ、エンカレッジを置くべきじゃないか!

これが死んだ母親がミスミに残したかった本当の言葉だ。
この塔の写真を撮影した日、彼女は娘と心中しようとしたが、ミスミは腹が減ったと泣いたんだ。。
その時に近くにあった塔がこの写真の塔である。
その写真に、母親は言葉を書き残した
ENCOURAGE !
勇気づける。

誰かを勇気づけこと、それが使命だ!


それはこの文章に続く・・・

私は馬鹿なことをせず、あの場から帰って来た。
そしてそれが生きる勇気だ。
救われたのが空腹なんて・・・・


人を勇気づけるのが人の使命だと言うのが母親の言葉だ。
相手の言う通りに願いを叶えてやるではない。
そんなのは甘やかしだ。


作品としては、雰囲気があり、とても面白い。
でも、これでは芥川賞は少し難しい。


2020 9/1


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?