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感想 まるみちゃんとうさぎくん  大前粟生  突然、スペシャルな能力が身につく病気が流行する。楽しい日々は、薬が開発されて終わる。

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子供にも読めるファンタジー小説かと思ったが、モチーフの深さに驚いた。
ある日を境目に、ある町で奇病が発生する。
突然、スペシャルな能力が身につくというものだった。

主人公の小学生のまるみちゃんには翼が生えた。
空を飛びたいという願望が具現化したのだ。
まるみちゃんの友だちのうさぎ君は、透明人間。
母親の手からはバナナが生えてて、食べたら、また、出てくる。彼女はバナナ好き。
担任の先生の右手は恐竜。ガォ~とかわいい。
手に猫。髪がタコ。マシュマロを出せる。火を出せる。マシュマロを火で焼いてみんなに食べてもらう。ホームルームがパーティみたい。楽しい。とにかくスペシャル。子供たちは大はしゃぎ、みんな、それを個性として受け入れる。願望が具現化したものが能力となったのだ。夢が実現したのだ。

きっと子供たちは、この状況を楽しんでいたと思う。
もちろん、病気に感染しなかった子もいて、彼らは少し悲しい思いをする。
いつだって、少数派はそうなんだ。

病気だから、治そうと考えるのは大人の発想。
ついに治療薬が完成する。
大きなお世話だ。

すると、薬を飲み能力を失う子たちが増えてくる。
大人は当然だが、子供たちも離脱していく。

子供たちは薬を飲むか飲まないかの選択を突きつけられる。

まるみちゃんは言う。

翼が急に生えた時みたいに、突然、勝手に元に戻ったら、何も決めなくて楽なのに

自分の願望なのに、楽しいのに、周囲の同調圧力に耐えられない自分がいて
いっそ、強制的に元に戻ればいいのにと考えてしまう。


親は薬が完成しすごく喜ぶ。
まるで、人と違うスペシャル
個性がいけないことであるかのようにだ。

だって、スペシャルじゃない人のほうが多いんだし。数が多い側にいたほうがパンちゃんだって生きやすいよ

人と違うと生きにくい
だから、せっかく獲得した個性を抹殺しろというのだ。
そして、子供たちは次々と獲得した能力を放棄していく

個性は病気なのか?
人と違うのは悪なのか?
少数派は滅亡すべきなのか。
数の論理で常に物事を決める傾向、多数決絶対主義。
それはマイノリティを非難しているのだよ。

よく電車の中で おしゃべりしている高校生とかに、爺さんが「しゃべるな」と怒鳴りつけたり、マスクしてない人を非難する人を見かける。

コロナ陰性な上、ワクチン打ったばかりだと訴えていた人を見かけたことがある。しかし、おっさんは問答無用という感じでブチぎれ。自分の持っていた布マスクを手渡し、これを付けろと強制していたのを目撃したこともある。

その時、僕は同調圧力の怖さを痛切に感じた。
人と違うということだけで、まるで天下を取ったように批判してくる人たちの浅ましさ。

マスクを外すな、髪の毛を金髪に染めるな、髭を生やすな巨人軍の伝統にそぐわない・・・
こういうの気色悪い。
関西人なのに巨人ファンて・・・。
だから、どうなの?。
それは犯罪なのか!!!。

男と男が手を繋いでいたら舌打ちする。目を反らせる。「ホモ、きしょ」と陰口を叩く。
みんながみんな同じじゃなきゃ気にいらない。
個性は大切ですと言っている同じ口で、マイノリティを排除する世界。
誰もが同調圧力が怖くて個性を発揮できない。ごく限られた芸能人や特権階級だけしか個性的であれない。
そういう社会構造に疑問符を投げかけている作品だと思います。
薬を飲まないという選択こそが、多数派でなきゃならないです。

だって、僕なら透明人間でずっといたいよ。
親に説得されても薬なんか飲まないもんね。


2022  5 12
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