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書評 完全犯罪の恋  田中慎弥  他者の自意識ほど醜悪なものはないのですね。

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若い女に声をかけられた。
昔好きだった女のだった。
母親のことを聞かせてくださいと懇願され
作家の田中は自分の過去を語りだす

ただの三角関係で
付き合っていたと思っていた文学少女に
隠れ彼氏がいて
嫉妬してエキセントリックな反応で呼応し
最後は、三島の好きな彼に
三島が好きなら三島みたいに死ねと伝えろと暴言を吐く

とにかく、この田中の話す物語の田中の心情がひどい
男だからとか、女のくせにとか、
女々しいし、尊大だし、やることがゴミ


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作者そのものだ。芥川賞作家の田中さん。


この田中の自意識
まるで汚物のようなのだ
行動がエキセントリックだ
ありえない
何だかわけがわからない自分勝手さ

で、相手の女の方もおかしくて
その娘の態度もおかしい
敵対している騎馬民族の罵倒試合みたいになっていて
混沌としてて
うんこの投げ合いでもしているかのようで
大笑いさせてもらった

タイトルの完全犯罪の恋の意味は、母親が死んでいたという事実に起因するが
そこでやっと娘の態度の異常さに納得がいく
作家の田中のせいで母親が死んだと思っていたのだ
三角関係の力点であった彼女の母親は、田中と先輩との間で揺れていたと娘は思ったのか?
でも、どう考えても田中はダミーの恋人役である
田中が彼女の恋人を自殺させようと
「三島のファンなら三島のように死ねと伝えろ」と八つ当たりしたのに対し
彼女は「なら、あんたは川端康成みたいに死ね」と。

そんな彼女が結婚に失敗
人生にも失敗
落胆
自殺した。
それは高校の頃、田中に吐いた暴言が許せなかったと見ることもできる
つまり自己嫌悪だ。
しかし、そうではなく、これは文学に殺されたのではないかと思うのだ。
虚無的に生きていた彼女は、ある時、田中の言葉を思い出した
三島が好きなら、三島みたいに死ねと伝えろ
その言葉は、ずっとブーメランみたいに頭上で何十年もまわってて
弱った時、それは時限爆弾みたいに破裂したのだった
故に、完全犯罪の恋なのである。
にしても、この主人公の田中の自意識はきもい。何だろな、コレ。


2020 12/8



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