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書評 捨て猫のプリンアラモード  麻宮ゆり子    料理ものの小説は、食べ物が美味しそうで、人も優しくていい。

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ずっと思っていたんだけど、料理ものに出てくる登場人物って、どうしていい人が多いのだろう。
それは美味な料理の近くにいると、人まで優しくなるということなのか?。
本書にも、たくさんの魅力的で優しい人たちが登場します。

時代は東京オリンピックの直前、場所は浅草。
集団疎開で工場で奴隷労働させられていたキョーちゃん17歳が
会社の人に追いかけられているところから物語はスタートする。
たまたま、助けてくれたとし子さんは、洋食屋のオーナー。
店に連れて行き、カレーをごちそうしてくれるのだが・・・
「いらない・・・」と断る。

そんなキョーちゃんの過去だが・・・


私は多額の支度金を受け取った親から、川崎の会社に売られて東京にやってきた。そう、親や大人からひどい目にあったのだ。「人でなし。人身売買」という郷子の呪詛は、工場の人間だけでなく、血のつながった自身の親に対して向けられる言葉であったのだった。

大人たちに搾取されて人間不信になっていた。

その工場で出されるカレーが最悪の味で、いつも腹を壊していた。
だから、せっかくの親切を「いりません・・・」なんて言ってしまうのだ。

そんな彼女が、この店のカレーを食べ驚く。
今まで食べていたのは、カレーではない。あんなのはカレーとは認めないと思うのだった。

彼女の先輩に勝という料理見習いがいる。
彼は美味な人参のグラッセを作る。でも、いつも残る。
彼は実家の兄嫁が子供の頃から好きだった。
この切ない初恋の物語が良かった。

カレー、ニンジンのグラッセ、すき焼き、プリンアラモードとたくさんの美味しそうなものが出てくるのだが、一番ぐっときたのは二階堂先輩のおにぎりだった。

炊きたてのご飯に、近所の蕎麦屋でもらった揚げ玉と、刻んだ梅干しと青じさとゴマ、さらに醤油を少し回し入れて、ざっくり混ぜてにぎっただけ

なんだけど、これが一番食べたい。
この先輩は男の人と山に登る相談をしていた。心中するんじゃないかと心配するんだ。
でも、そうじゃなかった。二人は戦災孤児仲間だっただけだった。

料理の事なんか、何も知らないキョーちゃん。
そんな彼女を友達の小巻ちゃんがこう評する。

「キョーちゃんは初めて食べるものがいっぱいあるから、楽しみもいっぱいだね」

先輩の二階堂さんが続ける。

「ほんと、新規メニューを考える時は畠山さんに試食してもらえば、たいていどれも食べたことがないから、かなり新鮮な意見が聞けるって料理長も言っていた」

こんな風に、キョーちゃんは皆に優しくされるのでした。
やはり、優しさと美味しい料理は相性がいいようだ。

2020 8/14




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