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感想 正体 染井為人 冤罪って、肉体を殺すだけでなく、その人の価値すら一瞬で消去する核爆弾みたいな恐ろしいことです。



この小説はとても面白かった。無我夢中でむさぼり食うように読みました。傑作です。
しばらく、怒りが痺れをともない身体に滞留していました。

冤罪がモチーフです。

ある一家を殺した犯人として死刑を求刑された鏑木少年
彼は無罪を主張するも、生き残りの祖母がボケていたこともあり有罪になる。

彼は脱走する。
その逃走中の話しが中心です。
それがすごく魅力的なのです。

鏑木は、工事現場やWEBライター、スキー場のホテルの仕事、介護施設のバイトなどをし逃走しています。

そこで色んな人に出会います。
そこから彼の人物像が見えてくる。
善人。
それも圧倒的な。

深く関わった人たちは、みんな彼が犯人だなんて信じない。
そのエピソードの数々がイキイキしてて面白い。

かなりの大作ですが、一気読みでした。
寝るのも食事も忘れて読みふけりました。
それくらい楽しかった。

冤罪は、肉体や魂を殺す。
と同時に、その人の尊厳も一瞬にして消し去ります。
それは核爆弾を投下されたみたいに、すべてが消し去るのです。

あってはならないことだと思いました。

最後、思いました。
鏑木を殺さないでくれと。
しかし、そうはいきません。

鏑木が冤罪で殺されることで
この作品は完成するのです。

だから、彼は無実なのに殺されます。

彼の収集した証拠も
死とともに警察により隠蔽されます。

彼は、警察官によって射殺される。
これが、この物語にとって大切なのです。

でないと免罪の悲劇が伝わらない。

彼の死後、彼の関わった人たちの努力で無実が証明される。
それが意味があるのかどうかはわからない。

でも、冤罪事件はたいてい、その罪を償った後に訂正されたりします。

被害者は絶望という名の独房の中に収監されるのです。
だから、絶対にあってはならないことなのです。

すごくいい作品でした。




2023 8 27



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