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書評 おおきな森 古川日出男   小説の力を改めて思い知らされた。決して、楽しい読書ではなかったが、この長編を読破したことに後悔はない。

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900ページ弱という長編だった。
私は、読むのが早い方だが、結局、平日は4時間平均、・・・の20時間。土曜に10時間。合計30時間かかった。通常なら3冊くらい読める時間を費やしたことになる。
1時間に30ページしか読めないというのも、私にとっては屈辱である。
今週は、ほとんどネットもしてないし、テレビも見てない。余った時間を読書時間に総動員した。
今回の読書は、格闘と言っても過言ではない。疲れた。でも、読んだことに後悔はない。
読みにくいわけじゃない。
話しにまとまりがないのだ、話題が飛ぶから混乱した、こういう実験的な本はのめりこめない。だから、きつい。

まず、丸消須(マルケス)という記憶のない男が、宮沢賢治の「銀河鉄道」っぽい電車に乗っていて、そこで溺死。つまり、ありえない死体を見て、それを推理するという形からの導入であるが、その動機付けは、すぐに、忘れられるのか、よくわからない展開になっていく。
それから坂口安吾が出て来て、こちらは失踪した女性を探すだとかになっていく。
話しは連続性があるようで、そうではなく、まるで何かのだまし絵でも見せられているかのように、前に横にと物語は拡張していくのだ。

簡単に言うとタイトルのままの作品だ。
「おおきな森」なのだ。
はじめは1人だったのが、2人とか3人・・・。1つの話しが2つに3つにと広がっていく。それは大きな森ができるのと同じ過程である。

印象に残った話しを紹介します。
坂口安吾のパートなんだが・・・、この人は失踪した女性を探していたのだと思う。

「・・・アキは蒸発して、それは2か月間の蒸発だったけれど、体にもう1人を入れて戻って来たんだって・・・」

ようするに、失踪したアキに、別の心が入って戻って来たというのだ。
1つの身体に、2つの心。

「人はね、死んだらね、樹木になるんだよ」
ジュモク?と従姉妹
「死んでもね、樹になるんだよ」
樹になるのね、お父さん?
「そうだよ。だから、安心だよ」
どうして安心なの?
「その、死なないですむからさ」
その樹が林となり森となっていく・・・。

西洋音楽と東洋音楽が別れたものと認識された話しも興味深く。
それは豊臣秀吉の政治が深く関与していた。
1つの音楽という概念が、西洋と東洋にわかれる。

ゴッホは1人であり、二人である。
弟も含むという話しも興味深い。

私立探偵には助手がいる。

このように、1つの物が2つになる話しが続いていく。
呼び名と正式名とか。

だんだん、2つの話しから、3つとか、もっと・・・という話しが出てくる。
原爆が3回落ちた世界。岩手にあったイートハープがあった。これも1,2、3とあり。満州国も1,2,3とある。

さらに、架空の人物まで出てきて
物語は丸消須たちによって書かれていく。
創作によってどんどん世界は広がっていく

小説は、小説は、だから危険なのだ。と私は思った。
現在なるものを発生させてしまう。その発生源になってしまう。ゆえに不穏、ゆえに剣呑なのだ、と。
ここは第三満州国で、その土地柄は森森で、つまり、自然条件はただの1つ、「終わりのない森」の森森であって、そこを貫いている鉄道に俺は乗っていて、・・・違う、俺たちは、だ、そして乗りながら俺は、いま、この車輛で映画を鑑賞する。

ここに人間がどんどん増える列車がある、ってことは、どこかに、「人間がどんどん減らされる列車がある」を暗示する。だろ?。強制的に減らされる。つまりは、殺人だ。命名しよう。連続殺人列車がある。

「京都は3つある」だった。との断片的な想いが反響した。すると京都が実際に3つに分裂し、繁茂した。

銀河鉄道の夜(宮沢賢治)、百年の孤独「ガルシア・マルケス」、坂口安吾「イノチガケ」などの物語が、この物語に侵食し、それを飲み込み、大いなる森と成長していく。

最初に述べた通り、話しはよくからない。時間とか空間も変で、1つのものが2つに、3つにと広がっていき。小説で作品を書くように、その森の世界は膨張していき、「大きな森」となったということなのだと思う。

この本を最後まで読んだ自分を褒めてやりたい。

2020 6/20



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