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感想 正欲 朝井 リョウ まるで、背後から鈍器で殴られたような衝撃。これまでの価値観が揺らぐ傑作。



僕は、この世界をよくするために一番必要なのは多様性だと思っていました。
しかし、本書を読み。よくわからなくなった。

これは多様性という言葉を曲がって解釈している
そう、最初は感じました。
しかし、よく考えると、本当に混乱しわからなくなるのです。

そういう意味で、本書は、僕の中に爪痕を残したと言えます。


プロローグで著者は、この物語のモチーフを暗示しています。

「多様性、という言葉が生んだものの一つに、おめでたさ、がある」


と。

この物語は、この言葉の意味を解き明かす物語でもあります。


この物語のあらすじを簡単に説明します。 ネタバレさせます。


検事の寺井と、寝具の販売員の桐生。そして、大学生の神戸の三人が主な語り手て゛

寺井の小学生の息子は不登校で友達とユーチューブバーをしている。
しかし、そこでリクエストがあり、それが変態さんの性欲を満足させていた。
つまり、子供が変態のおかずになっていたということです。

桐生は独身女、性欲がありません。
「世間では理解されにくい欲望」を持つという設定です。
水に興奮します。

彼女の同級生で同じく水に興奮する男佐々木とともに、寺井の息子の番組にリクエストし
その小学生たちの水遊びやらに性的な興奮を感じているのです。
児童性愛者ではなく、あくまで水に興奮するのです
水のかかった人とかにです。

桐生と佐々木は偽装結婚しています。

神戸は、男嫌いです。ひきこもりの兄が、エッチな動画を見ているのを知り男性不審になりました。
でも、大也というイケメン同級生にだけ気を許す
その大也も桐生や佐々木と同じで、「世間では理解されにくい欲望」を持つ人です。

最終的には、検事の寺井が、佐々木と大也を取り調べる。
二人は、もう一人の男と三人で児童の水浴び写真を所有していて
それで逮捕されたのです。

多様性が叫ばれる世界において、僕たちは色んなものを許容するようにと言われています。
この世界には色んな価値観があるからです。

「世間では理解されにくい欲望」を持つ人
児童の水浴びに興奮する性癖の人
それも多様性でもあります。
それは、彼らにとっては切実な問題です。

もちろん、小学生のユーチューブバーに変なことさせたり、公園で遊んでいる子供の写真をみんなで共有するのはダメです。

しかし、彼らにも彼らの主張が存在します。


自分が想像できる多様性だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな。
お前らが大好きな多様性って、使えばそれっぽくなる魔法の言葉じゃねぇんだよ。
自分にはわからない。想像もできないような事柄がこの世界にはいっぱいある。
多様性って言いながら、俺らを一つの方向に導いていこうとするなよ、自分は偏った考え方の人とは違って色んな立場の人をバランスよく理解してますみたいな顔してるが、お前はあくまで色色理解してますという偏った、たった一人の人間なんだよ。目に見えるゴミ捨てて、綺麗な花飾ってわーい時代のアップデートだと言っている極端な一人なんだよ。


多様性を認めようとは言いつつも
例外設定があるのです。


どんな人間だって自由に生きられる世界を、ただし、まじでヤバいやつは除く。差別はダメ、だが、小児性愛者や凶悪犯は隔離されて欲しいし、倫理的にアウトな言動をした人は社会的に消えるべき。


ここで提示される多様性の例は、極めて極端な話しです。
逮捕された二人は、水に興奮する性癖であり、児童に欲情するわけではありません

多様性を認めなくてはと言いつつも
多数者は聞く耳すらもたない

「多様性、という言葉が生んだものの一つに、おめでたさ、がある」


という冒頭の作者の言葉の意味わかりますよね。

口だけ多様性って言っているけど、本気で多様性を認めようとしないじゃないか
みんなが言う多様性は、一種のファションみたいなものです。

みんなが言うから言っている。
まだ、本質がついてきていない。


しかし、いくら多様性でも、児童の動画や写真に興奮するのは
かなり抵抗がある。

もっと違う話しなら、すんなり納得できたのにと思いました。




2023 8 29



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