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感想 ビューティフルからビューティフルへ  日比野 コレコ 文藝新人賞史上最低の受賞作品と言ってた人がいたが、僕は面白いと思いましたよ。


文藝新人賞受賞作品。
受賞当初、やたらと評判が悪かったのですが、その理由の一つはわけわかんないという意見でした。
確かに、わけわかんないです。

しかし、僕は嫌いじゃない。

この中二病をこじらしたようなヘンテコさが楽しかった。

物語は、成績はいいが親が新興宗教にはまっててネグレクトされていた ナナと彼に恋する  静
友達の腰ぎんちゃくの ビルE の三人の物語

共通するのは、ことばあ という 金曜の夜に塾をしている婆さん

下品な性描写や、独特の価値観、かなり個性的な味付けがなされている作品でした。

展開が急で、雑な感じがしました。
雑に感じた原因は、三人のパートが同じ文体でほぼ同じ温度で書かれていて
それは違うだろと思った点です。
モチーフも伝わらず。

選考委員の角田光代さんのコメントが面白い

高校三年生 ナナ 静 ビルE と視点が切り替わっていくが、みんな似たような文体であり似たような感性であるのが書き手の書き癖のように思えたが、もしかしたら、十八歳の彼らが等しく持っている絶望と希望、自分自身への嫌悪と謳歌を、小説内で等しく割り振ったのかもしれない。

普通、三つのパートは一つずつ、その人に合わせて描くのですが、それをしてない。角田さんは好意的に批評しているが、僕には新人によくありがちな技量のなさとか、そういうことを知らなかっただけに思えました。

しかし、やたらと面白い。

文化祭の出し物の幟の話しを例にとると
令和桃太郎
これを悪戯する。
桃を消して膣にする。
令和膣太郎



これ笑っていいのか、ちょっと悩んでしまう感じですが
平気で下ネタを大量投下してきます。

作者は、おっさんと思いきや、2003年生まれの女の子なのです。

言語感覚が独特で、それが本書の魅力です。

ナナという新興宗教に親がはまっている女の子の場合
こんな描写がある。

生きていく中で、心をここにならおいておける、というような安全な場所がないから、負の感情をぜんぶ受け取って一人でため込んでしまう。そして、その貯めこんだものをボットントイレ方式で、ナナより弱いものに向かって排泄される


ようするに、イジメをしているという告白です。
ここには、ナナという少女の孤独がよく表現されている。
それが作者の独特の比喩によって生々しさを出しているのです。

静は、愛に生きる少女です。
ダイという少年に恋をしている。

どれだけ好きかを表した表現、比喩、これ独特でした。

恋の力で、範馬勇次郎に殺されるのを0コンマ何秒、絶対に遅らせられるくらい、ダイのことが好きだった。

絶対に不可避の死の状況でも少しでも生きて彼と一緒にいたい
これ究極の愛です。



次は、ナナです。幸せそうなクラスの友達に対して抱く感情。
この表現もなかなか光っていました。

堂前みたいな女に対して、お前は彼氏いない歴=年齢かもしれないけど、こっちは死にたい歴=年齢なんだよなめんな、と思ってしまう


ナナの絶望が伝わってきます。

ことばあ の塾の宿題 自分の人生を年表にしてという話しも面白い。

私の人生を年表にすると、生まれる、ネグレストネグレストネグレストネグレストネグレスト
小学校入学、いじめられるいじめられるいじめられるいじめられるいじめられる
中学入学、いじめるいじめる、高校入学、いじめるいじめる、になるだろう


彼女の決めていることも面白い。

OOになりたいと絶対に言わないこと、だった。誰かになりたいなんて言う、自分をじわじわ引きちぎるようなこと、死んでも言っちゃだめだ。だってなれるはずがないんだからさ。堂々と、自分のままで、ピラミッドの頂点で小指ぶつけて痛がるよ


親の被害の深刻さの描写も良い

あのひとたちのせいで感情をいくつも中絶してきたもの


彼女にはリアルな感情がない

飛び降りた人と、コンクリートがそうするみたいに、ばちんと誰かと生身でぶつかったことは一度もないから


ナナ 静 ビルE の三人を描いた物語なのですが
描写の温度が、実はまったく違うのがわかります。

目についた表現は、ほとんどナナの場面のものでした。
文字配分は、ほぼ平等なのだけど、これはナナの物語なのかもしれません。




2023 5 18



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