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しりとりエッセイ(雑文)  こ 濃いカルピス


<わ> わんこ >>>  <こ> 濃いカルピス


落研の友人から聞いた話しだ。

落語の演目に「まんじゅうこわい」というのがある。
ある男を怖がらせようと悪戯する。怖いものを聞かれて「まんじゅう」と答える。
彼の部屋に、彼らは饅頭を投げ込むのです。
「怖い」「怖い」と言いながら男は全部たいらげてしまう。
つまり、まんじゅうは男の好物。
「あつーーい緑茶が怖い」と、この男は図々しい。
そんな笑い話しなのですが・・・。

僕の友人のM林は落研部員であった。
夏に、みんなで集まって幽霊話しをしたのだが、その時、彼はセクハラをやってしまった。
琴美という部員に、「何か飲み物をください」と頼まれた。
だが、酒しかない。コーラも烏龍茶もなくなっていた。冷蔵庫にカルピスがあった。
彼は子供の頃から濃いいカルピスが好きだったものだから、彼女にも原液たっぷりのカルピスをあげた。
「はい、俺の濃いいカルピス・・・」
コップを差し出す。数秒間の沈黙、それから叫び声。

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琴美は失神した。

琴美には、他にも白い液体にまつわる話しが多数目撃されている。
先輩のOが鴨川で昼飯を食っていた。張り込みの刑事みたく、牛乳とアンパン。
気がつくと、琴美が目の前に立っていた。
それで、いきなり「実はですね・・・」と話し出した。
それは小話しだった。先輩は大笑いし、口に含んだ牛乳を「ぶっ」と鼻からびゅっと。

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その白い液体が、彼女のワンピースに・・・。
それで、また、琴美は大げさに騒ぎ逃げて行ったのだった。

その頃から、琴美は怪しいということになった。
あいつは「まんじゅうこわい」だと言う女子が増えて来た。
つまり、白い液体が好きなのだ。痴女なのだという。
それで、ある日、そんなに白い液体が怖いというのなら、部室を白い液体だらけにしてやれということになった。
つまり、悪戯である。
その白い液体はカルピスである。その原液をそこら中に透明なカップに入れて置いておいた。
その数100というからすごい。
彼女は、奥に座ると落語の練習を始めた。わざと男子部員ばかり10人が彼女を取り囲む。手にはカルピスの原液が・・。
彼女の落語がとまる。異様な周囲の雰囲気を察した彼女。男たちは白い液体を持っている。近づいてくる。

琴美は、いきなり立ち上がると「きゃー」と叫び、窓を開け裸足のまま地面に飛び降りる。
一階ではあったが、地面まで1m半はある。裸足だ。そのまま中庭を通り抜け旧校舎の方へと逃げて行った。
そこは行き止まりのはずだった。
30分、彼らは琴美を待った。謝罪するつもりだった。だが、彼女は戻ってこない。不思議に思ったM林は、その中庭の奥に彼女を迎えに行った。
「琴美ちゃん、ごめん・・・」
だが、その先にはコンクリートの壁があり行き止まりなのである。壁は2m以上あり、その壁の向こうは道路だ。
壁を飛び越えたとしか思えないのだが、そんなことは人間にはできん。

とぼとぼ戻ってくると、「そもそも琴美って、うちのサークルの部員なのか?」と先輩が言い出した。
確かに、色んなイベントに出ていたが、落語の寄席などには参加しなかった。文学部と聞いていたが授業で彼女に会った人はいなかった。
いつも水曜日にだけやってくる。白い液体を自ら呼んでいるのではないかと誰かが言った。
「あいつは、いきなり現れる」「カルピスソーダ―飲んでいたら現れた」
本当に、うちの生徒だったのか?。彼女って、どんな顔をしていた?。
わからない、思い出せない。何琴美だっけ・・・。わからない。家がどこかも誰も知らない。

Tという先輩が不思議なことを言った。
「この前、M林君が一人で学食にいたのよ。何かレポート書いていたよね」
「ええ、琴美が気がつくといました」
「そう、いきなり現れたの。ポンッと現れたの」
それで琴美はずっとM林のカルピスソーダ―を凝視していたそうなのである。
「舌なめずりしてた・・・」
でも、M林が彼女に気づくと、その白い液体をやたらと怖がるふりをしていたそうなのである。

その日を境に琴美は落研にやってこなくなった。
M林は、琴美のことを妖怪だと思うと、僕に語った。

次回は、 <す>寿司

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