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感想 爆弾 呉 勝浩 誰しも人間は心の中に爆弾を内包しているのかもしれません。



【2023年本屋大賞ノミネート作】
【第167回直木賞候補作】

爆弾事件が起こります。
それを酔っぱらいの冴えない男が予言する。
「十時に秋葉原で爆発がある」と。
霊感があるというスズキタゴサクです。

「ここから三度、次は一時間後に爆発します」

このスズキと、刑事たちのやり取りが物語の核になります。
舞台の大半は、取調室です。

ミステリー作品なのでネタバレすると良くないので詳しいことは語れませんがハラハラドキドキの展開です。かなり面白い。おすすめです。

刑事と、スズキタゴサクはクイズ形式の問答のようなものをし
スズキから、刑事たちは次の事件のヒントを貰い解決するというパターンになります。

この問答の中に、スズキの本音が見てとれました。
かなり過激です。
でも、それが誰にも相手にされない49歳の男の本音なのでしょう。

スズキは自分を石ころだと言います。
生きてても死んでても誰にも気にされない存在だと言います。

生命にはランクずけがあると断言する。

その直後、爆弾事件解決に動いていた刑事が
子供が狙われると警戒していたのですが
爆破されたのはホームレスの炊き出しの場で犠牲者は40人もいたのに
ホッとしたという描写があります

ホームレスは臭いんです。
臭いのだけはどうしようもありません。
ごまかせません。



これが スズキタゴサク が言うところの生命のランクです。

彼の主張には、石ころみたいに無視されている底辺に生きる人々の本音が見てとれました。
印象に残ったセリフを紹介します。


これは無差別テロではありません、厳正な審査の元に裁きはくだされるのです。浮浪者は殺します。臭いからです。子供は殺します。うるさいからです。妊婦さんは殺します。面積が広いからです。フェミニストは殺します。生意気だからです。アニメアイコンは殺します、性根ががひんまがっているからです。外国人は殺します。あいつらみんなギャングかスパイです。前科者は殺します。どうせ、再犯するからです。障害者は殺します。めんどうだからです。老人は殺します。鬱陶しいからです。独身貴族は殺します。子孫を増やす気がないからです。幸せいっぱいの家族もです。不幸は分かち合うものだから。金持ちは殺します。妬ましいからです。ユーチューバーは殺します。調子にのっているからです。人権派弁護士は殺します。お高くとまっているからです。政治家は殺します。全部悪いのはお前らです。人に迷惑をかけるやつ、それを屁とも思わないクズ、被害者づらをしたがるブス。水と平和と生活保護は、ただと信じる楽天家。上から目線のエセ評論家。いちいちパンケーキを写メするやつ、環境保護活動家、親ばか、マザコン、人より犬猫を可愛がる連中。考えがあわないからです。有名人はみな殺します。盛り上がるからです。



みんな心の中に、それぞれの爆弾を内包していると思う。
この小説を読んで思いました。

誰だって、社会に対して文句はある。
でも、爆弾を爆発させたりはしない。

それは想像力があるから。
そんなことしたら、どうなるか、人間なら想像すべきなのです。
人殺しに正義などあるわけがない。





2023 6 20



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