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感想 両手にトカレフ  ブレイディみかこ 子供に親は選べない。この不幸は誰のせいなのか。怒りが奔流となって心を駆け巡る。



ブレイディみかこさんのエッセイが好きで何冊か有名どころは読んでいる。
ブレグジットの問題や移民差別、格差、イギリスの保険制度の脆弱さなどを指摘していて面白い。

この作品は小説だ。
それも子供の貧困を描いている。
これは日本でも問題になっていて、イギリス固有の問題ではない。

親ガチャという言葉がある。
子供は親を選べない。生まれた親で運命がほぼ決まるというアレだ。

首相の息子に生まれたら、めっちゃ金持ちで権力もあるし、おバカでも親が助けてくれる。
クソ親の下に生まれたら、殺害されて草むらに捨てられる。

それは理不尽だ。

この物語は、14歳のミアと弟の貧困の物語だ。
読んでて吐き気がしてくる。
金がないということは、不幸なのだと実感する。

彼女は、あるホームレスのおっちゃんに一冊の本を貰う。図書館の本だが・・・。
日本の政治犯金子文子の半生を描いた本だった。
ただし、引用されるのは子供の時のみ。

どうして、作者は、ここに金子文子を唐突に入れ込んだのか
意図は何なのか

この二人がやたらと重なる。
もしかすると作者は、金子文子の悲惨な子供時代に刺激されて、この物語を描いたのかもしれない。

金子文子の物語とミアの物語が同時進行で進む。
これが本書の成功因子だと僕は思う。

ミアは、ラップとも出会う。
ラップは魂の叫びだ。ミアのような悲惨な人生を送っている人だからこそ、良い詩が書けるのだ。

タイトルの両手にトカレフは、彼女の詩に友人が曲をつけて製作したものだ。
彼女のソウルがそこにはある。

ミアの世界と金子文子の世界で共通するのは性の赤裸々だ
四歳の時から、彼女はこれを見せつけられていた。


男と女は結局は、ああいう風になる。貧乏で家が狭かったこともあるが、私のまわりの大人たちは子供の前であの行為をすることに躊躇しなかった。あの行為は生活の一部だった。


ミアの母がドラックで入院した時、子供の彼女と弟の世話をしてくれた国が派遣してきた男のことが印象深い

弟が裸にされて悪戯されていて、自分も・・・

幼児は変態の標的にされる。


これだって感じる瞬間だけ、私たちは違う世界に行ってるんじゃないかな。



というミアの言葉が気になる。
実は、金子文子も同じ思いだった。

耐え難い現状、だから、別の素晴らしい世界を夢想する。
赤毛のアンが想像力を働かせたように。

ミアは母がいなくなり、かわりに子ども食堂のスタッフで親友の母親が二人の里親になってくれたことで未来が開けてきた。


ここじゃない世界に行きたいと思っていたのに、世界はまだ、ここで続いている。でも、それは前とは違っている。たぶん、世界はここから私たちがいるこの場所から変わって、こことは違う世界に変わってしまうのかもしれないね。



ミヤはついていた。
現実は、こんなパッピーはないだろう。

ここで本書で書かれていない金子文子について少し触れる。
僕が読んだ本の曖昧な知識と半日的な映画に描かれている世界がベースの知識だから、たぶん、正確ではない。参考程度に。

金子文子は、悲惨な幼少期の後、韓国のある青年と出会う。朝鮮人朴烈という人物だ。彼は無政府主義者だ。彼は、そういう朝鮮人組織の主要メンバーであり、上海から爆弾を取り寄せていた。目的は、天皇と皇太子暗殺だ。

しかし、関東大震災が発生し未遂に終わった。
震災後、流言飛語が飛び交い朝鮮人は井戸に毒を入れたなどと決めつけられて一部の日本人の暴徒によりたくさん殺害された。
そのことを隠すため、つまり目先を変えるために朴烈とその愛人である金子文子は逮捕された。


罪状は大逆罪である。

この計画のことを文子は知らなかったらしい。
しかし、朴烈の覚悟を知ると彼女は自分は共犯者であると証言したのだった。

天皇制否定を二人は続けた。
朝鮮人にとり、天皇は害虫であり悪の象徴だった。

裁判で死刑になる。
しかし、天皇の恩赦で減刑される。

金子文子と朴烈 という半日的な韓国映画によると、このことを文子は不服に思い。自殺したのかもという解釈だった。
絶対悪の天皇に助けられるなんてありえない。絶対に受け入れたくない。だから自ら生命を絶ったというのだが、夫の朴烈は生きているので少し変だしご都合主義だ。

遺体の下げ渡しを拒否されたこともあり、獄中で殺害されたと僕は見ている。日本人からすると、文子は裏切り者の極悪テロリストだからだ。

この少し後に、同じ無政府主義者の伊藤野枝さんが殺害されている。かなり惨い殺され方だったらしい。
伊藤野枝は立派な人で、金子文子みたいなのと同じにするのは嫌だけど、軍人からすると、ただのテロリストだったのかもしれない。

大正後期から昭和の初期にかけて無政府主義者はたくさんいて、警察は彼らを憎悪していたのがわかる。金子文子は伊藤野枝みたいに酷い殺されかたをしたと想像する。

金子文子の見ていた別の世界は、暴力で作った世界だったのだが、ミヤの世界は違う。

僕は、金子文子なんて評価するつもりはないし
ただのテロリスト。目立ちたがり屋だと思っているが、作者はどういう意図で金子文子を使ったのかと興味がある。

2023 9 4



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