見出し画像

”食卓”から究極のサイエンスコミュニケーションを体験したはなし

先日(一財)東京水産振興会が開催する「大人の食育セミナー 豊海おさかなミュージアム食育セミナー」というものにお試し参加をさせていただいた。

約2時間で、管理栄養士の先生の座学と、お魚を丸ごと使った調理&食事(共食)をするもの。
東京水産振興会が2011年から魚食普及を目的に継続開催していて、魚の良さを確認しあったり、その良さを活かした食事について考えて、実際に作って食べたり、魚や健康についての学習をする。月に1回ペースで毎回テーマを決めて開催しているらしく、私が参加した回は「第120回」となっていた。すごい。

正直最初は栄養的に「魚は体にいい」等のありきたりなお話をして、ありがたいお魚を食べるという平凡なお料理教室的なセミナーなのだろうと、そこまで期待をしていなかったのだが、その期待を大きく裏切るとても秀逸なセミナーだったのでここに記録を残しておきたいと思う。

栄養素から食卓を想像できるか?

今回のセミナーの内容は「「主食・主菜・副菜」を大切にするセミナーの食事づくり」だった。実習では、「いわしの手開き体験と一食(いっしょく)づくり」を行った。

先生の座学が始まると、例のごとく「栄養素ってどんなものがありますか?」という質問が投げかけられる。
家庭科の授業で習ったような、習っていないような、、、そんな記憶をたどって、何とかことばを絞り出す大人たち。
「炭水化物」「タンパク質」・・・等、5つの「栄養素」が挙げられた。

次に聞かれたのが、「普段私たちが目にしたり、食べたりしている”食材”はどの栄養素を主に含んでいるか」ということ。
米や卵、精肉や鮮魚の写真が配られ、をそれぞれの「栄養素」に振り分ける作業だった。

ここで先生が言った言葉にハッとした。
「皆さん、この食材からどんな料理ができるか想像できますか?」

なるほど、「お料理」から「食材」を想像して、「栄養素」にたどり着く作戦か。

そういわれてみれば、、、
自分で作るときは当然材料をそろえるところからやるから、どんな食材を使ったかわかるけど、外食が多い現代人(私も含め)は、すでに出来上がった「お料理」からどんな食材が使われているのかを想像する必要がある。
ここが想像できないと、せっかく名前を知っている「栄養素」でも、日常に取り入れようがないのだ。

このセミナーでは、「『栄養素』の効果を知って、バランスよくとるようにしましょう」というありがちなものではなく、「栄養素」をバランスよくとるための食事(=お料理の組み合わせ)をイメージできるようにすることをゴールにしていた。

つまり、ただ単に「栄養素」という専門知識を”教えてあげる”のではなく、受講する方の日常(その方の得意なイメージの方法)に落とし込んでくるれる。

そのゴールが見えた瞬間、私はそこに究極のサイエンスコミュニケーションを見た気がして、ものすごい感動した。

実は管理栄養士も”縦”に学んでいる

セミナー終了後、そんな感動を先生にお伝えしてみた。
「栄養学の世界は、生活者と科学的な知識をつなぐことが実践できているすごく先進的な学問なんですね」と私が興奮を抑えきれないテンションで話したところ、先生のコメントは意外なものだった。

「実は私たちも”縦割り”で学んできたんです」
今回は、「栄養素レベル」⇔「食品レベル」⇔「料理レベル」⇔「食事レベル」と横のつながりを可視化して、とってもわかりやすく説明をしていただいた。そしてそれを日常で活用できるまでにしてくれた。
しかし実際に栄養学の世界では、それぞれが縦に分かれているらしい。
「おそらく学んだり研究したりしている学生たちも、今自分がどの部分をやっているのかということを意識していない方がほとんどだろう」とのこと。
こんなに先進的な事例がある世界でも、課題はあるようだった。

「漁業」を日常に近づけるヒント

今回の体験を通して、私は「漁業」を日常に近づけるためのヒントを得たような気がする。
「漁業コミュニケーター」を名乗っているが、私にはまだまだ「専門」から「専門外」への知識の提供という意識が潜在的にあると気づかされた。
漁業関係者じゃない人にとっての「漁業」についての視点と知識が足りていない。

「サイエンスコミュニケーション」や「パブリックリレーションズ」をヒントに「漁業コミュニケーター」というポジションを探っているけれど、まだまだまだまだ理論だけでは深く理解できていないところがあることに気づき、反省するとともに可能性にわくわくしている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?