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第23週「恋のメロディ」#イヨマンテの夜

”アーホイヨーアー… イヨマンテ…”

 掛け声から始まる歌詞は、伊藤久男が表現する魂の叫び。戦後彼の代表曲となった「イヨマンテの夜」は、1950年1月にレコード発売されました。NHKラジオドラマ『鐘の鳴る丘』挿入歌でしたが、最初から挿入歌が決まっていて番組で話題になってレコードが売れる…という話ではなかったようです。

『鐘の鳴る丘』は、1947年7月から1950年12月までNHKラジオで放送。
復員した主人公と戦災孤児の交流を描いた内容で大ヒットしました。これを手掛けたのは、劇作家・菊田一夫。主題歌は、童謡歌手・川田正子が歌う「とんがり帽子」です。

菊田一夫作詞、古関裕而が作曲したこの曲は、ドラマの放送とともに大きく世間に広がり、放送初年の翌年・1948年の選抜高校野球の入場行進曲に選ばれています。
戦後の古関裕而は、菊田一夫と組んで数多くのヒット作を連発します。

 さて「イヨマンテの夜」について。この曲はもともと歌詞も伴奏のない、アカペラの旋律のみでドラマで使われていました。ドラマ内では奥多摩の木こりがよく口ずさむ楽曲で、伊藤久男の豪快かつ哀愁も漂う歌声が合計5回ほど使用されていました。本来ならそのドラマのみの使用であったところ、その完成度の高さに、ドラマだけで終わってしまうのは勿体ないというのが菊田一夫・古関裕而双方の考えでした。
2人の意見が一致して、菊田一夫によって新たに歌詞が加えられレコード化するという形でした。

 菊田一夫が題材に選んだのはアイヌ。イヨマンテとは、アイヌの神聖な儀式である熊祭りです。”アーホイヤー…”から始まる伊藤久男の歌声だけでなく、歌詞も崇高さを感じさせます。もっとも菊田自身は実際アイヌにそれほど精通しているわけではなく、実際のイヨマンテと歌詞の内容が決して一致しているわけではないようです。レコード会社は当初「こんな難しい歌が売れるわけがない」という意見で、ほとんど宣伝されず注目もされなかったようです。

 ところが、その楽曲の難解さがかえってヒットを呼びます。
それが最も如実に出たのが、『NHKのど自慢』。
冒頭の豪快な歌声は、自らの歌唱力をアピールするのにまさに打ってつけ。1950年から1952年頃までは、男性出場者の誰かが毎週のように歌っていたという話もあったとか。カラオケで挑戦し甲斐のある曲、という理由でヒットした楽曲は後年多く生まれますが、その源流はここにあるのかもしれません。(文:ミュージックソムリエ:柏井要一)

NHK連続テレビ小説「エール」                  (NHK総合月〜金 朝8:00〜8:15、12:45〜13:00)
土曜日は1週間を振り返ります。その他NHK BSプレミアム、NHK BS4Kでもオンエア中です。    
*放送予定 3月30日〜9月26日
またNHKオンデマンドでも見逃し放送をご覧になることができます。

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