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第20週「栄冠は君に輝く」#栄冠は君に輝く

ドラマ「エール」では、山崎育三郎さん演じる久志が廃人のようになっていたところから、甲子園のマウンドに立ち、全国高等学校野球選手権大会の大会歌「栄冠は君に輝く」を、最初はためらうように、そして徐々に朗々と歌う姿が感動的でした。


通常では考えられないことですが、3番まで一発撮りでアカペラでリズムも崩さず歌いきり、後から歌に合わせてオーケストラが入れられたそうです。
山崎育三郎さんの歌唱力に改めて素晴らしいなぁと思います。

古関裕而は、ドラマ「エール」第8週で登場する、早稲田の応援歌「紺碧の空」のエピソード、「六甲おろし」の曲で阪神タイガースOBの掛布雅之さんがタイガースの法被を着て熱唱するシーンが印象に残っています。

その他、慶応義塾大学の応援歌「我ぞ覇者」、読売巨人軍球団歌「闘魂こめて」、「スポーツショー行進曲」1964年の東京オリンピック行進曲「オリンピックマーチ」など数多くのスポーツに関連する定番曲を作曲しています。

夏の甲子園、全国高等学校野球選手権大会の大会歌としておなじみの「栄冠は君に輝く」が完成したのは1948年。この年に行われた第30回全国高等学校野球選手権大会から正式に制定されました。

…となるとそれ以前の29回は?これは全国中等学校優勝野球大会。GHQによる学制改革で、これまでの中等学校5年制から現在の6-3-3-4体制に移行しました。これまでの旧制中等学校は、新しく発足された新制高等学校に移行します。1935年の第21回から山田耕筰作曲の大会歌が使われていましたが、キリの良い回数と学制改革をきっかけにテーマソングも新しく作ろう、というのが流れとしてあったようです。

 歌詞は、全国5252作品の応募から選ばれた、加賀道子作詞「栄冠は君に輝く」。正式に応募したのは加賀大介という作詞家でした。加賀道子という名前は婚約者の名前だったのです。この時点でプロの文筆家であった以上、5万円(現在でいう300万~400万円の価値)の懸賞金目当てと思われるのを嫌ったと言うことで1968年まで明かされなかったそうです。


草野球の怪我で右脚を失った経験を持つ加賀大介、2番の“風を打ち 大地を蹴りて”にも作者の強い想いが込められているように思えます。
石川県の能美郡根上町出身。1973年に亡くなってちょうど1年後に、あのメジャーリーガー・松井秀喜が同地で産まれたのは偶然でしょうか…。

 その歌詞を元にして作った古関裕而のメロディーは、直接甲子園球場のグランドに立って高校球児の若々しいプレイをイメージして一気に書き上げたものだそうです。

軍歌における「戦争」、“war”とは全く違う爽快さが存在する「合戦」「試合」、”match”“game”。
“雲は湧き光あふれて”という無限の広がりをイメージした歌詞に最も合致しているメロディーであることは、発表から70年以上経った現在の人々が聴いても同じ感覚として共有出来る部分ではないでしょうか。

伊藤久男の類稀な声量はやはり、無限の広がりを持つこの曲に大変よく合っています。現在では、大会を重ねるたびに全国の高校生、あるいは日本の歌手が新しく歌い継いでいます。
発表から70年以上経っていますが、古さを感じることはありません。
いつまでも、ずっと、夏の風物詩として歌い継がれることをおおいに望みます。
(文:ミュージックソムリエ:柏井要一)

NHK連続テレビ小説「エール」                  (NHK総合月〜金 朝8:00〜8:15、12:45〜13:00)
土曜日は1週間を振り返ります。その他NHK BSプレミアム、NHK BS4Kでもオンエア中です。    
*放送予定 3月30日〜9月26日
またNHKオンデマンドでも見逃し放送をご覧になることができます。



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