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【アーカイヴ】第143回/ミュージックバードの、「3」から「5」、「121」と「123」(チューナーと、注目のチャンネルについて)  [鈴木裕]

 ミュージックバード関連の話題を2つ。
 まず「3」から「5」はチューナーの話。
うちでミュージックバードを聴くのに使ってきたチューナーがCDT-3AFD。これが昨年暮れからMDT-5CSになって一カ月ほどがたった。松竹梅で言うと竹のチューナーである。ミュージックバードのウェブサイトにある「チューナー比較表」を見ると、「デジタル端子」は「3」の〇に対して「5」は◎。「アナログ音質」は「3」も「5」も「標準」。「デジタル音質」は「3」も「5」も〇ということになっている。ミュージックバード販売価格で言うとCDT-3AFDは47,800円(税別)。MDT-5CSは99,800円(税別)で、「3」に対して「5」はおおよそ倍の値段。良くなっているのは「デジタル端子」だけで、これで倍の値段の意味はあるのかと感じる方もいらっしゃるかと思う。

 オーディオ的な音質に関係する部分で言うと、「5」はボディが金属製になっている。それだけのことかと思われるかもしれないが、プラスチック製はよほどがっちり作らないとその再生音の低域が踏ん張りきれなかったり、プラスチック特有のだるい匂いが音に乗るというのが経験則。なおかつ「5」のボディは鋼板を組み合わせた本体とアルミのフロントパネルだが、これがけっこうしっかりしている。10万円くらいしても天板を軽く叩くと「チャン・チャン」という安い音がするコンポーネントもあるが、コンコンという手応えで、制振系アクセサリーやインシュレーターも効いてくる作りだ。電源部も小さめとは言え電源トランスを登載。そして最大の音質的優位性としては「デジタル端子」◎の部分。同軸2系統、光TOSの端子1系統の、合計3系統を採用。数の多さというよりも同軸コアキシャル端子を装備してくれたのがありがたい。

ミュージックバード専用チューナー【MDT-5CS】
ラックの奥に鎮座するMDT-5CS。
幅は430mmというフルサイズに対して、
奥行きは165mmと浅い。ケーブル類をしょっちゅう付けたり外したりしているので、
背後からのアクセスがしやすいようにラックの奥に方に置いてある。

 まず一般論として、光TOSよりも同軸のが音はいい。TOSリンクにはたしかに電気信号で接続しない分、伝送過程で電磁波の影響を受けないというメリットはあるものの、変換過程が多いのと光を明滅させる装置の存在が問題を難しくしている。簡単に書くと、衛星からの電波をパラボナアンテナで受信。その電気信号をいったん光信号に変換し、TOSリンクでDAコンバーターへ。DAコンバーター側でもいったん光から電気信号に変換し、そしてさらにそれをアナログ信号に変換する。この変換過程の多さがまず問題。そして光信号は点灯したり消えたりというチカチカを繰り返しているわけだが、このオンとオフのリニアリティの問題もあるようだ。あるいは光ケーブル自体の光を通す部分のプラスチックや石英といった材質の問題もある。

左がMDT-5CS、右はマイテックのDAコンバーター、Stereo192-DSD DAC M。
マイテックは幅と奥行きが216mmずつ。こう並べるとその形の特徴が良くわかる。

 DAコンバーターのスペックを見ると同軸端子は192kHzまで受けられるのに対し、光TOSだと96kHzまで対応していない。これはつまり192KHzの速い明滅ではリニアリティが取れない、ということだと思う。たしかにミュージックバードは48kHzだし、出来のいいTOSリンクのケーブルの方が芳しくない同軸ケーブルよりも音が良く感じられることはたしかにある。これは方式の違いではなく、個々の製品のクォリティの問題。ただ、マイルドで雰囲気の良さという要素を多分に持つTOSリンクに対して、音の剛性感やコントラスト、シャープネスがきちんと出てくる同軸接続の優位性は実際に体験すれば多くの方に賛成してもらえるんじゃないだろうか。ただ、同軸デジタルケーブルでも製品の違いによる音のクォリティの差は大きいので、良質なものを使ってほしいというのもまた本音ではある。

MDT-5CSとDAコンバーター(マイテックやエソテリックK-03Xなど)とを
接続する同軸デジタルケーブル。
MIT(ミュージック・インターフェイス・テクノロジーズ)の
往年のデジタル・リファレンスを使うことが多い。
この分野のケーブルによる音の違いの変化量はかなり大きい。

 以上のような理由で「3」の倍の値段のする「5」の意味はあると感じている。ミュージックバードに契約している人であれば良質なDAコンバーターを持っている方も多いと思うので、CDT-3AFDのTOS リンクも悪くないが、MDT-5CSでの同軸デジタルでの接続をお薦めしたい。もちろんその上にConclusion C-T100CS(参考販売価格198,000円 税別)がラインナップしていて、以前に聴いたこともあるがアナログ出力もデジタル出力も値段以上に音はいい。

 続いて「121」「123」はミュージックバードのチャンネルのこと。
 まず「121」はクラシックチャンネルで、24bit放送が始まっているという話題。今のところ、「ハイレゾ・クラシック by e-onkyo music」や「WORLD LIVE SELECTION」、「トッパンホール・トライアングル」だけだが、是非この音質を楽しんでほしい。
 たしか1年以上前から16bit放送と24bit放送のテストはやっていて、同じ音源のものをそのふたつのフォーマットで放送して違いが出るのかという検証をしていた。自分もそれを自宅で聴いてリポートを書いたが、音像の細部のフォーカスの合い方や空間の奥行き表現などに大きな違いがあって、たしかにクラシックチャンネルから導入されたのも理解できる。

 こうなってくるとせっかくだから早くオーディオチャンネルの「124」にも導入してもらいたいものではある。衛星を介するので伝送する情報量に制限があるようだが、単なる希望として書いておこう。僕よりもリスナーの方からとか、「もしオーディオチャンネルが24bitになったら加入するのだけど」といった契約を考えている方からの意見が寄せられると導入が早まるかもしれない。

 そして「123」は「THE 青春歌謡」チャンネル。
 この名前だけ見ると、誰の青春時代かとまず思う。実際にそのチャンネルの番組タイトルを見ると「青春フォーク&ニューミュージック」「青春歌謡年鑑 80年代/70年代/60年代」「日本のうた・童謡唱歌」「懐かしのメロディー」「J-POP 80's」「80's アイドル歌謡」等々、そういうことかというイメージも湧いてくる。どうやら40歳代から70歳代までをカバーしているようだ。
 このチャンネルがなかなか面白い。個人的にもっと日本のポップミュージックを大事にした方がいいんじゃないかという思いもある。他のチャンネルとも重複する音楽もあるが、青春の、歌謡の、と聴き手の観点からまとめたところに意味を感じる。同じ曲をかけるのでもククリが大事だ。

 先日、このチャンネルの「川崎浩の歌謡ラボ」を聴いていたらこまどり姉妹がゲスト出演していて、その内容が相当にディープだった。一カ月に3枚くらいレコードを出していて時間がなく、曲は一回聴けば3番まで覚えられるとか、一カ月のうち25日くらいは営業で地方に出ていて、しかも楽団も同行して50人くらいの集団だったとか、昔の人(こまどり姉妹のお二方には申し訳ないが)は偉かったなぁと感心することしきり。

 そして60年代から80年代の歌謡曲やフォーク、ニューミュージック、Jポップを聴くと感じるのは音や音楽の作り方に対する発見だ。たしかにこちらの音楽を聴く能力も高くなっているかもしれないが、その時々での作詞・作曲・編曲、そしてバンドやオーケストラ、歌手の人達、さらにレコーディング技術やエンジニアたちの頑張りが実に楽しくて、ついつい聴いてしまう。正直、変な曲も多くて、そこがまた闇鍋のようでもある。音だけ聴いてアーティスト名が浮かばない場合もあり、ついついミュージックバードのオフシャルサイトに行ってリアルタイムで表示されるその名前を確認。さらに検索エンジンでそのアーティストについて調べてしまうのは性分か。当時、テレビでしか聴いていなかった曲ほど、今のオーディオで聴くと「あー、そこはそうなっていたか」とか「よくこういうことをやってたもんだ」といった発見や感動が多い。

「オーディオって音楽だ!」に出演してくださった鈴木智雄さん(右)。

 また、松田聖子の80年代前半の録音のレコーディング・エンジニアは鈴木智雄さんだが、あのサムライのようなエンジニアが必死でこういう音を作っていたかと想像するとまた味わい深い。あるいは小泉今日子についてもプロデューサー(田村充義氏)とレコーディング・エンジニア(高田英男氏)にインタビューしたことがあるので、売れるために日々戦っていた様子も浮かんでくる。

「オリジナル盤でたどる昭和流行歌史」パーソナリティの篠田寛一さん。

 そしてさらに2月からは「オリジナル盤でたどる昭和流行歌史」という番組が始まる。以前、自分の番組にもゲストに来ていただいた篠田寛一さんが出演者であり、オリジナル盤の所有者だろう。「昭和に生まれた名曲名盤をすべてオリジナル盤で聴くという企画」というのがまず凄い。つまり80年代途中まではSP盤かレコードだ。そして「当時のイコライジング再生カーブに対応したヴィンテージの真空管アンプをスタジオに持ち込み、こだわりのオーディオ再生」するというのだから、他では聴けない貴重なものなのは間違いない。

 最近漠然と思うのだが、ミュージックバードって実は凄いのかもしれない。こんなにマニアックで、総合力のあるメディアって他に思い浮かばないからだ。あまり広まらないように、いつまでも「実は凄い」くらいで、こっそりと続いていってほしい。

(2017年1月31日更新) 第142回に戻る 第144回に進む 


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鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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