見出し画像

第340回/レコードの収納方法を「ジャケアップ式」にした10月[田中伊佐資]

●10月×日/レコードがいいのはジャケットが大きいところ。みたいなことはよく聞く話だが、実は見てくれにおいて弱点はある。背幅が薄い。印刷してある文字が小さい。読みにくい。僕はこのところ老眼が進んでいることもあって読もうとする気すら起こらない。
 ほんの数ミリ幅が広いだけだが、CDの背文字は視認性がよく、プラケースに保護されていることもあって印刷がヘタっていない。タイトルもミュージシャン名もわかりやすい。CDはこの点で勝っている。

リスニングルームに置かれたIKEA製ラックには約600枚のレコードが収められている

 ラックに立てかけたレコードを当てもなく、さあてなにを聴こうかなと眺めるとき、目を凝らしているくらいだったらジャケットを見たい。そのときに1枚1枚を横にスライドさせて引っ張り出すのは、非常に勝手が悪い。レコード店のようにスコスコとつまみ上げるジャケアップ式のほうが断然速い。
 しかも指でジャケット送りながら、上のほうを見ただけで、だいたいは思い出すから、店頭で行っているスピードとは比べものにならない。
 ということで、せめてラックの上段(天板)に並べてあるレコードだけでも箱に収めることにした。
 僕のラックはIKEA製で、憶えていないほど昔、とても安く買った。そこでまずIKEAのネット通販を見ると「クーシンゲン ボックス」というレコードにちょうどいいサイズの箱があった。ポリプロピレン製で1個399円。ほかのサイトを探す気にならないほど安い。即決だった。
 上段のレコードは、ミュージシャンやジャンルなどで類別していない。むちゃくちゃな並びで、レコード店でいう「新入荷」「New Arrival」の色彩が濃いが、いつまでもそのまま定住している古参もかなりある。いわばテキトーに整理されたコーナーだ。
 このレコードを3箱に収めてみた。だいたい1箱に60~70枚くらいは入った。80枚まで大丈夫そうだが、あまりにもパツンパツンだと上げにくいので少し余裕をもたせておく。結構これは大事なことで、レコード店によっては指を入れるのも一苦労なほど詰め込んでいることがあり、摩擦で上に持ち上がらないことがある。上からシリコンスプレーをかけてやろうかと思うこともある(思うだけですが)。
 ともあれ、ジャケアップ式にした効果は想像以上だった。埋もれたまま忘れていたレコードも多く「おおそうだ、これ聴いてみるか」とリスニング意欲が増進した。

ラックの上段にあるレコードは、
ジャケットを見て確認したいがために、
IKEAの「クーシンゲン ボックス」に収める

 そうなるとレコードラックの中段、下段もなんとかしたい。IKEA同士なのでクーシンゲン ボックスをラックにすっぽり入れることができる。引き出した箱は、高さが同じ台の上に載せればいい。というかそうすることしかアイデアが浮かばない。
 その台を自作するか、なにか既製品を買ってきて高さを揃えて脚を切るかなど思いつつ、ふと部屋にあるコーヒーテーブルを当ててみた。これがなんと特注で作ったかのようにほぼ同じ高さだった。指で触った感じで、高低差は1ミリない。これはできたも同然ではないか。
 と思うのは甘かった。レコードは重い。これをさして考慮に入れていなかった。いっぱいに詰めた箱をズルズルと動かそうとしたが、簡単にはいかない。箱の前方に耳がついているが、力任せに引っ張ろうとしたら縫製部分が切れそうになった。重さを測ったら24キロあった。
 そこで考えたのが、家具などの下に貼り、力を入れずに移動させる目的で作られたスベリ材シートだ。これを箱の底になるべく広い面積で貼る。
ホームセンターに行って、買う一歩手前までいったが、あの重さを考えるとすんなり動く確証はないと思い出した。そのうち剥がれたり、ツルツル具合が劣化したりすることもあるだろう。

家具などの移動に使うスベリ材シート。これで箱を動かすことをまず考えた

 それなら台車に載せる方法が確実だ。板材をカットしてもらって、キャスターを付ければいい。ところがレコードをラックに収めたときの上部空間は高さ3.5cmくらいしかない。キャスターはせいぜい高さ3cm以下でなければならない。そんな小さなものは売っていなかった。
 自宅に戻って、ネットで検索してもミニキャスターは見つからない。シート作戦もやむなしかと諦めてかけていたところ、これぞと思うものが見つかった。
「New楽ちんパワフルキャリー用長尺台車2台セット」という長い商品名の、家具移動用の台車だ。1個が幅4.5、奥行31cmで、高さがわずか1.5cmしかなく、ローラー(タイヤ)が20個もついている。
これを戦車のキャタピラのようなイメージで、板材に左右2個付ければいい。家具の「持ち上げ棒」付きだと高くなるが、無しの商品もあった。2,545円と僕の感覚では決して安くはなかったが、ここまでが自分の知恵の限界と悟って、とりあえず4セットを買った。

家具などの重いものを移動させるために使う
「New楽ちんパワフルキャリー用長尺台車2台セット」。
レコード箱の下に敷いて引き出せるようにする

 届いた現物を見て、強度的にも機能的にもこれならいけると思った。念のため台車のローラーとシャフトの接触部には、本当にシリコンスプレーを塗布した。やはりスベリが全然違う。
 板材は5.5ミリ厚のシナ合板をホームセンターで切ってもらった。箱の底面ぴったりではなく、前後をやや長めにした。出っ張った部分は引っ張り出すためのベロにする。箱に付いているベロにどれだけ負荷がかかるかわからないため、これは保険だった。
 レコードを箱に詰めてセットしてみた。最も危惧していたのは、引っ張り出すときの負荷で、重たいとレコードを出す気がなくなる。これはまったく問題なし。片手で動く。

ジャケアップ式は成功。
なお下段の箱には厚みがちょうどよかったスノコを台にした。
今後ラック内すべてのレコードを変更する予定

 ジャケアップで見ていくレコードは本当に楽しい。このラックにあるレコードは約600枚で、一応1軍としてリスニングルームに置いてある。2軍は日の当たらない部屋で不遇をかこっているが、たまに入れ替えている。
 とはいえ1軍といってもいつ針を落としたのか記憶にないレコードもかなりあり、実際は限られたレコードしか聴いていないのも事実だ。持っているだけで満足していた部分がある。
 しかし、ジャケアップ式にした途端、前述の通り、あれもこれもと聴きたくなる。一気にレコードが増えて儲かったような気分すらある。まあ、これがほんとのレコード再生ってことなんだろう。

(2022年11月21日更新)   第339回に戻る


※鈴木裕氏は療養中のため、しばらく休載となります。(2022年5月27日)


▲気になる方はこちらをクリック
▲気になる方はこちらをクリック

過去のコラムをご覧になりたい方はこちら


田中伊佐資(たなかいさし)

東京都生まれ。音楽雑誌の編集者を経てフリーライターに。近著は『大判 音の見える部屋 私のオーディオ人生譚』(音楽之友社)。ほか『ヴィニジャン レコード・オーディオの私的な壺』『ジャズと喫茶とオーディオ』『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(同)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)『オーディオ風土記』(同)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。 Twitter 

お持ちの機器との接続方法
コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」バックナンバー


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?