第3話 具体策の総論 ~正しく逃げ道をふさぐ~

はじめに


前回までは、”寄り添い”には落とし穴があること、そしてその落とし穴の正体を説明しました。

そのうえで、企業にはその落とし穴にはまらないために責任をもって手を打つべきだ、ということをお話ししました。

今回は企業がとるべき具体策を総論的にお話ししていきます。

第1話では2人の人物が登場しました。

・うつ病にかかりながら、不十分な回復で働き続けたAさん

・ミスが多く発達障害の診断もあり、ハレモノのようになってしまったBさん

この2人です。

さて、それぞれに対して会社はどのような対策を講じるべきだったでしょうか?対策としては

➀会社における課題点を本人とも共有する

➁病気の特性を評価する

➂合理的な対策をとる

この3つが重要です。この3つはメンタル対応の基本になるものです。

Aさん、Bさんで若干対策が異なるので、別々に解説したうえで最後に上記の3つをまとめます。

うつ病のAさんの場合


Aさんの場合は「不調が分かった時点、あるいは一定期間回復しなかった時点で、本人にはしっかり休んでもらい、回復を待ってから復職してもらうべきだった」と言えます。

多くのメンタル不調は、しっかり休んで治療すれば、回復は十分見込めます。ただ、メンタルが不調な人であるほど、かえって「休む」という決断がしにくくなります。

うつ病は微小妄想※、貧困妄想※などを引き起こすこともあるほど、心理状態が不安定になり「居場所を失う不安」や「経済面の不安」が過剰になる傾向があります。

※自分は無価値で不必要と思い込んでしまうのが「微小妄想」、お金が全くない、経済的に破綻してしまうと思い込んでしまうのが「貧困妄想」。いずれも現実とは異なるひどい思い込みのこと


その結果、十分休むこともできずどんどん悪化してしまい取り返しのつかない事態になることもあります。

ですから企業は長期的な視野をもち、一定期間回復しない場合は本人が仕事の継続や復職を望んでも、回復するまで休むよう命じることも必要です。結果として本人が治療に向き合うきっかけになるはずです。

私はこれを「正しく“逃げ道”をふさぐ」と呼んでいます。

私の経験上、休みに入る前は非常に強い不安を抱いていた方でも、回復すると「あの時にしっかり休んでおいてよかった」とおっしゃるケースがほとんどです。

Aさんがもし回復までしっかり休めていたら、短期的にはお給料は減ったかもしれませんが、復職後ほどなく、本来の力を取り戻すことができたはずです。

発達障害のBさんの場合


Bさんの場合は「Bさんの課題点を明確に指摘し、ともに解決を図るべき」でした。

発達障害というものは、生まれつきの特性のことです。そのためうつ病と違って休むことが解決に直結するものではありません。(詳細は後半に予定している病気の各論で触れていきます。)

特性=得手、不得手を把握し、それに応じた対応策を身に着けたり、あるいは得意な分野を伸ばしてたり活用したりすることが解決につながります。

そして会社側も無理のない範囲でBさんが活躍できる舞台を用意する必要があります。例えば職種変更を検討することなどdす。

対応策を身につける具体策としては、例えばうっかり忘れが多い人がチェックリストを活用する、などのことです。

得意な分野を伸ばしたり活用したりする例は、臨機応変な対応は苦手だけど、集中力がありささいなミスも見逃さない特性があるような人がいたとします。そうなると例えば接客や営業といったその場の機転がモノを言う職種よりも、監査やシステムのバグチェックなどの職種が向いていることがあります。

もちろん、解決に向かう主体は本人であることが望ましいです。しかし会社もまた、無理のない範囲で業務の割り振りを工夫したり、接し方を工夫すべきだったでしょう。

Bさんのケースでは会社はその場しのぎの対応を続けていました。

本来であれば、Bさんに課題点を伝え、具体的な解決策をBさんとともに模索すべきでした。例えばミスが多く困っていること、人間関係でトラブルが多発していること、などを伝えるべきでした。

これもまた”正しく逃げ道をふさぐ”ことになります。

Bさんには課題点を伝えず、ただただ周囲が配慮することは、一見優しいように見えますが、結果としてBさんは成長の機会を失ってしまいます。

同時にBさんだけでなく周囲への配慮や適切な評価も必要だったでしょう。

まとめ


➀会社における課題点を本人とも共有する

周囲が課題を過剰に肩代わりせず、しっかりと課題を伝え向きあえるようにします。

➁病気の特性を評価する

いずれの場合も正しい病気の評価が欠かせません。そのためには医学的な知見が不可欠となりそんな時に重要なのが産業医の存在です。

産業医から適切な意見を聞くことが重要です。

➂合理的な対策をとる

合理的な対策とは「周囲に過剰な肩代わりをさせないよう、適切な線引きすること」です。そのためには適切な評価も欠かせません。

逆に合理的ではない対策は、周囲が過剰に肩代わりしてしまい、無理が生じることです。

これはけっして本人の負担を強めようとして言っているわけではありません。しかし仕事を軽減するなどの配慮は際限なく続けられるものではありません。「持続可能」な配慮になるよう、企業が長期的な見通しを持つことが必要なのです。

次回の連載では、具体的な対策を取らなかった企業が、民事裁判などで責任を問われたケースなどを紹介していきます。

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