第1話 ゴールなき”寄り添い”の落とし穴

はじめに

今回から『寄り添う”以外”のメンタル対応』シリーズを書いていきます。(もくじはこちら

まず今回は企業でのあるあるケースをご紹介して、ゴールなき寄り添いがどのような問題を引き起こすか見ていきます。

紹介するケースではメンタル不調や精神疾患に苦しむ社員が登場します。

このnoteで強調したいことは、病気の人を糾弾したり・排除したりすることではありません。

むしろ企業が責任をもって、病気に苦しむ社員や周囲の人が無理なく、病気で必要以上に苦しむことなく働けるように対処していくことを願うものです。

なお、いずれのケースも実際にあった無数のケースを組み合わせたり創作を加えたりして個人や団体が特定できないように配慮しています。

キャリアの塩漬け40代社員のケース➀

A さんは大学新卒で大企業に入社し順調にキャリアを積んでいました。

しかし30代前半の頃、異動やプライベートのストレスなどからうつ病を発症してしまいました。

主治医からは数カ月は休むように勧められました。

しかし、A さんは経済面やキャリアの不安、なにより周囲に迷惑をかけたくないとの思いから、1週間程度休んだだけで復帰しました。

もともとAさんは大型案件の交渉担当など責任ある業務をしていました。

うつ病発症後、上司は A さんに配慮して、 営業資料作成や請求書作成など補助的業務を任せ、責任や負担を軽減してあげました。

Aさんは会社に感謝する一方で、月に数回以上休んだり、パフォーマンスが落ちたりする状況が長く続きました。

A さんの体調はなかなか改善せず気が付くとその配慮は数年に渡っていました。

相変わらずAさんの体調は万全ではなく、急に休むことも多く、できる仕事も減っていきました。

やがて業務内容もコピー取りや資料の整理などが中心になり手持無沙汰になることもしばしばでした。このことに対してAさんも悩む一方、どうすることもできずに途方に暮れていました。

A さんが40代に差し掛かる頃、会社の業績が落ち始め評価制度の見直しがありました。

人事は業績をほとんどあげてない Aさんをずっと同じポジションで雇い続けることは難しいと考えていました。そこで降格・降給の話をしたところ A さんは激怒してしまいました。

「自分は病気で頑張っているのにこんな仕打ちをするなんて会社はおかしい!」と。

これを受けて人事は トラブルを恐れました。

 A さんにいっそう配慮するように現場に命じる一方、具体的な指示はありませんでした。

上司は A さんの悩みや愚痴を毎日のようによく聞いてあげて、周囲の社員に仕事を振るなどAさんの負担を減らして、寄り添う対応をしていました。

一方で A さんの仕事を肩代わりしたり、 A さんよりもずっと低い給料で働いている周囲や若手からは不満の声が上がり始めてしまいました。

Aさんは10年以上責任のある仕事に携わっていないし、そもそも年齢に見合う経験や技術もないため、人事・上司ともに扱いに困り始めてしまいました。

すでに取り返しのつかないところまでキャリアの塩漬けが起きてしまっていたのです。

一方でAさんも体調がつらい状態は続いており、実は肩身の狭い思いをしていました。


配慮がやがて”ハレモノ”に ケース➁

30歳前半のBさんは、地方都市の大きな企業の本社に勤めています。

中堅大学を卒業後、新卒でこの企業に入ったBさんですが、仕事にはなかなかついていけず、不注意による重大なミスや不用意な発言による人間関係のトラブルも少なくありませんでした。

Bさんは悩みながら日々を過ごしていました。

20代半ばのあるとき、テレビで「発達障害」の特集番組を見たBさんは「自分はこれかもしれない」と思いメンタルクリニックを受診しました。

Bさんは詳細な問診と心理検査の結果、「発達障害:注意欠陥多動性障害(ADHD)」と診断されました。

ある時、厳しめの上司の下に配属されたBさんは、繰り返す同じミスについて叱責を受けました。今までの上司よりも厳しく指導されたBさんは体調を崩してしまい。しばらく会社を休みました。

その際に会社から診断書を求められたBさんは、通院中のメンタルクリニックから「発達障害につき配慮が必要」という内容を提出しました。

それを受けた人事や上司は驚きました。

病気の人に無理をさせてはいけないし、悪化させれば責任を追及されると思った上司は

・体調を崩さないように指導や叱責は避けミスは容認し

・仕事は本人ができる簡単なことのみをアサインし

・人間関係のトラブルが起きても相手方を注意するにとどめました。

そんな配慮が続いて数年、周囲は「Bさんには事情があるから」としか説明を受けておらず、ハレモノのように接するしかなくなってしました。

一方でBさんも仕事らしい仕事がアサインされないことにつらさを覚えていました。しかし、会社からは特段のリクエストもなくどうしていいかわからなくなっていました。

じつは会社側に責任がある

いかがでしょうか?

ここまで極端ではないにしろ、会社で勤めた経験のある方には、「あれ、そういえば」と思い当たる節があるのではないでしょうか ?

いずれもゴールなき”寄り添い”の落とし穴にはまっているケースです。

これらのケースではAさんやBさんだけに責任があるわけではありません。むしろ一番苦しんでいるのはAさんやBさんです。

配慮=寄り添っていたはずなのになぜこうなってしまうのか?

実は、会社にはできることがまだまだあります。

次回以降はこのようになってしまうメカニズムとともに会社の対応を説明していきます。

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