ザ・ビートルズ / The Beatles Now And Then 2023

現役当時から最新録音技術を追い求めていたビートルズの新曲

1995年のポール、ジョージ、リンゴによる『ザ・ビートルズ・アンソロジー』プロジェクトの最後の曲。
2021年の映画「ゲット・バック」で特定の楽器と声を分離できる技術ピーター・ジャクソンのMALマシーンによって、これまでジョン・レノンの声とピアノが分離できなかった障壁が取り払われた。
事態が急展開したことでビートルズとしての新曲が2023年11月奇跡のリリース。


カセット・テープからのジョン・レノンのボーカルは、最新技術で音声処理されボーカルが前面に出てはっきり聴こえている。

マイナー・コードの進行に合わせた歌の寂寥感と切なさが、高度な処理でより倍増されていて、涙を誘う要因になっている。

また歌詞の内容は、叶わぬ復縁がテーマだが、額面通り恋人へ向けて歌っているのと同時に、どう見てもビートルズをもう一度やり直せたらというジョンが静かに懇願している様が浮かんでしまう。
その叶わぬ現実にも関わらず演奏が粛々と続き、このまま曲が終わってしまうのを止めて欲しい気持ちや悲しい気持ちが綯い交ぜとなっていく。。


間違いなくビートルズのコーラスとハーモニー 

ポールがジョンのメインボーカルに追随していく。存命のポールとリンゴの2人の歌とコーラスでリンゴの声も存在がわかる。ジョンとポールのコーラスも長年かけて制作に辿り着いた執念が伝わるのでここも違った側面で涙を誘う仕上がりになっている。


プロモーション・ビデオを観て分かったこと

ダウナーでゆったりしたテンポに加えられたオーケストラ

ビートルズ後期の作品で採用された様々なストリングス曲を総括したかのような仕上がりを感じる。走馬灯のようにあの曲、この曲とそれぞれ思いが重なる。

ユニバーサル・ ミュージック グループの傘下の老舗名門のキャピトル・レコードでジョージ・マーティンの息子ジャイルズが録音指揮。
ビートルズを総括するにこの場所でしかないというスタジオをセッティング。オーケストラの導入は曲の完成度を最高度に高めている。
演奏家の機密保持も徹底させているとのことだが、ポール・マッカートニーが立ち会っているのを演奏家はどう思っているのだろうか?これは一体何の案件なのかひょっとして(ビートルズ)ということをよぎっている演奏家もいるかもしれないなど憶測が止まらない。


アコースティック・ギターとバイオリンベース

2本のアコースティック・ギターはやや奥で装飾的に鳴っている。ポールがマーティンでジョージがギブソンのアコースティック・ギターなのが分かった。※映像で見ると推測だがギブソンJ45のモデルの特注品かもしれない。
ただ、ともに新しいギターで音が若々しく新鮮なので2本がどちらなのかまでは聴き分けられなかった。(Free as a Bird のアコースティック・ギターの方が大きく聞こえるが、それも分からなかった)

ポールのヘフナーのバイオリン・ベースは初期のビートルズから有名だが、いつの時期のベースなのか分からないが、音を聴く限り経年変数を重ねた鳴動はしているので、こうしたベースの音も「ビートルズ」のバンドの音にぐっと接近させている。また生ピアノにアコースティック・ギター、弦楽器主体の曲なので音に暖かみを加えるのにふさわしいベースの選択をしている。


リンゴ・スターのレフティのドラムのセッティングの影響で独特のグルーブが聴ける

リムショットも右寄りに聴こえる。タムを連打するときに聴こえる順番が右から聴こえたり、バスドラの位置も左寄りに聴こえるので、独特のドラム・サウンドも今回の曲で再認識できる。ビートルズ特有のサウンドがさらに浮き彫りになった仕上がりになっている。
ドラムの細かい質感や鳴動する位置と奥行など生々しさが生かされた最新の録音技術が反映されている。

スネアを叩く「アタック」はリンゴの腕のスナップは、一聴して彼の「スネア=ビートルズ」が再認識できた。楽器のフィジカルな面を一番分かるのはドラムである。


ポールの友情ある施しがあまりに直球で、魂と心に突き刺さるジョージ・ハリスンのスライド・ギター

ジョージ・ハリスンは過去2曲は存命していたが、今回は残されたスライド・ギターを採用する形での参加になっている。
オーケストラの演奏の途中から絶妙なタイミングで曇らせたジョージの独特な音のスライド・ギターが途中から覆いかぶさる。
ジョージの面影が急に顔を出して、そっと空から微笑んでいるかのような究極の繋ぎ具合を目の当たりにしてさらに追い込んで号泣をしてしまう。


総論

ダコタ・アパートでカセット録音したピアノの弾き語り曲が元になった内省的な曲調と歌詞は、ジョンの将来のソロ・アルバム用に作っているのに関わらず、3人の演奏が加わることで「ビートルズ」のナンバーに生まれ変わっている。

ポール・マッカートニーが解散後に開花したそれぞれの個性と現役の頃のビートルズを俯瞰して長所を取り込むことが出来た名曲になった。4人は分かれていても大切な親友だったのと、永遠の友情が今も生きている当たり前の事が再認識できた。

終わり




ギター奏法追記

ところで映像にはジョージ・ハリスンがギターをペダル・スティールのように寝かせてバーをスライドさせるシーンがあった。
推測だが、ギターの指板を俯瞰してメロディ重視のフレーズやスケール、上下の弦の相互関係をおさらいして、トレーニングをしていたのかもしれない。

Now and Then のキーがAマイナー
ジョージのスライドギターの最大の特徴でオープン・チューニングをマイナー・コードで弾く点。
ジョージの悲しいフレーズはマイナー・キーのオープンコードでスケールやフレーズを組み立てる事で独特の存在を演出しているかもしれない。
Aマイナーだと2弦半音下げ、3と4弦は1音下げれば抑えなくても開放弦で鳴らせる。オープンAマイナーのスライド・ギターの可能性も高い。

この曲での出番は少ないが、ジョン・レノン・テープのアンソロジー3曲のスライド・ギターの隠れた貢献度を念頭に入れると、各曲違った風景でより身近に各楽曲に接することが出来る。

音階や音数の少ない独特のタイム感は、ビートルズ時代のインド遠征時代のラビシャンカールのシタールを取り入れている可能性が高い。


フレット間の往来をかなり広く横展開にスライドさせてビブラートを長めに保つところなど、他にもインドのシタール演奏家を現地でオン・ジョブ・トレーニングした経験が独特の「間」を作り上げ、ビートルズ解散後に開花した。やはりビートルズ時代のギタリストの地位の伏線を回収している。

※恐らくインドから帰ってきたジョージ・ハリスンはサージェント・ペパーズ以降で演奏のタイム感がより鍛えられ充分音楽に反映されているが、誰にも制約されることの無い解散後のソロ時代に一層開花した。

ジョージ・ハリスンのスライド・ギターはむせび泣くフレーズやタイム感に奥が深くて聴いていて飽きが来ない。難しいことをさりげなく弾いてしまうので当たり前に聴こえてしまうが、実は目立たないかもしれないが、唯一無二の稀有なスライド・ギタリストだ。


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