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18歳の鳥居から36歳の鳥居へのアドバイス

今年も確定申告が済んだ。消印有効という言葉が大好きだ。毎年この季節になると「なんでこの収入で生きていけているのかわからない」と言い出す人がぽつぽつと現れる。自分もまったく同じように思う。なぜ生きていけているのだろうか。現に生きていけているのだから取り立てて問題にする必要もなかろう。しかしそんなことを言っていると世慣れた人から、そうやって物事を楽観視していると後で痛い目を見るよ、と脅されるに違いない。

世間は金銭に関して無闇矢鱈に不安を煽りすぎなような気がする。「リボ払い」という言葉を聞いただけで胸が早鐘を打つようなナイーブな人間なので、警句は気安く発しないでほしいと思ってしまう。「なるようになるだろう、きっと」といったオプティミズムを抱かなければこのクルーエルワールドはとても渡っていけない。昔バイトしていた飲食店のお客さんだったブラジル帰りの画家がこんなことを言っていた。自分に厳しい人には厳しい人生が。甘い人には甘い人生が。

しかし金がないのはたしかに問題である。最低限の食い扶持は確保せねばなるまい。老後に2000万円ほどが不足するらしいから資産運用して備えておこうと考え、つみたてNISAを始めるのも至極真っ当だといえる。自分も楽天銀行の口座を開くところまではやった。その後が続かなかった。

「アリとキリギリス」という寓話がある。知らない人はいないだろうが、念のためあらすじをおさらいしてみよう。夏の間にせっせと食料を確保するアリたちを見てキリギリスは「食料なんて腐るほどあるじゃないか。それより一度限りの生を謳歌しなよ。歌を歌ったり、絵を描いたり、小説を書いたり、恋をしたり。そう、僕のようにね」と言ってからかう。アリは「冬になれば食料はなくなってしまうのですよ。だからこうして備えているのですよ」と忠告し、労働に勤しんだ。

冬がやってきた。案の定キリギリスは食べ物に困った。はじめはやせ我慢していたものの耐えきれず、わずかに残った力を振り絞って、遂にアリ宅のドアを叩いた。君たちが100%正しかった。俺が間抜けだった。小馬鹿にしてすまなかった。頼むから食べ物をわけてくれないか。キリギリスは懇願した。アリたちが言う。「夏は歌って過ごしたのだから冬は踊って過ごせば良いのでは」「ちょっとちょっと。そこで死ぬのはやめてくださいね。一体誰が片付けると思っているのですか」キリギリスが吹雪の中に消えるのを見届けてアリたちはドアを閉め、鍵をかけるのであった。

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日記と夢日記

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