うんうんなるほどそっかへえ
山手線の車両内部に設置されたディスプレイに映る広告を見ていると、定期的に次のようなものが確認できる。ある映像に対して、芸能人が「うーん?なんだろう?」「ふむふむ」「それでそれで」「そうか!なるほど!」「いいね!」「今回も勉強になったなあ!」といった反応を表情やジェスチャーで示すというものだ。このようにノンバーバルなリアクションを取っている理由は、車内で音声が流せないからだ。
現在は謎解きクリエイターの松丸亮吾がこの手の広告に出演している。過去には、河北麻友子、足立梨花が出演するものがあった。サッポロビールの広告「繁盛店の逸品」で、その年のイメージガールが身振り手振りでリアクションを取っていたのも記憶に残っている。
むろん出演者が本当に興味を持ったり、驚いたり、感心しているわけではない。改めて言うまでもなく、芸能人のリアクションはあらかじめ用意されており、毎回異なる映像と組み合わせているだけに過ぎない。モンタージュの基本中の基本である。しかしこの手の広告を眺めていると得も言われぬ気持ちが湧いてくる。自分がコミュニケーションとして求めているものが身も蓋もない形で示されていることにぎょっとしてしまうのだ。
「料理のさしすせそ」は、和食を作る際に調味料を入れる順番を語呂合わせにしたものだ。それぞれ、砂糖、塩、酢、醤油(せうゆ)、味噌(そ)が該当する。他方、「合コンのさしすせそ」と呼ばれるものもある。世の中の男性が喜ばずにはいられない相槌をまとめたものだ。「さすが」「信じられない(知らなかった)」「すごい」「センスいい」「そうなんだ(尊敬します)」という5パターンの相槌である。
「心にもないことを相手に言わせて何が嬉しいの?」と疑問を抱かずにはいられないが、おそらく思っていないにもかかわらず、そう言ってくれるその優しさが嬉しいのだと思われる。要するに甘えたいわけだ。あるいは、相手におべっかを使わせるだけのパワーを自分は手にしているのだと勘違いして気をよくしているだけ、という説もある。いずれにせよ、さわやかではない。
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