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五十嵐さんがそこで、満ち足りた表情で笑うから【10/25中日戦●】

マウンドに向かう五十嵐さんを、グラウンドに立つチームのみんながハグして迎えた。「泣かないで」と五十嵐さんは言っていたのに、私はもうその時点で泣いていた。

いやなんなら、外野席から、ブルペンにいる五十嵐さんを見つけた時点で泣いていた。お別れじゃなく、それは新しい門出なのだと、頭ではわかっていてもなお、寂しさはつきまとう。

五十嵐さんは、まっすぐのストレートを相手のシエラに投げ込んだ。シエラの打球を、エスキーは、ファインプレーで捕球し、ファーストの村上くん投げた。

村上くんのタッチでシエラはアウトになり、五十嵐さんの最後の投球は終わった。

チームのみんながまたマウンドに集まり、もう一度五十嵐さんにハグをした。高津さんも、ハグをした。マウンドで、五十嵐さんはとても満ち足りた顔で笑っていた。高津さんも、みんなも笑っていた。高津さんが、もう一球いけるんじゃない?と、聞いているように見えた。そう見えたのは、まだいけるんじゃない?と、私が思ったからかもしれない。いや、まだいってほしい、まだ現役の五十嵐さんを応援し続けていたい、そう私が思っていたかもしれない。

でも五十嵐さんは、最高の笑顔で、そのままマウンドをおりた。

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最後のスピーチで、五十嵐さんはまっすぐ前を見て、 「どんなときも、正面から向き合い、戦い、逃げることなくやってきたことを誇りに思います。 」と言った。

それを聞いて私はまた泣きながら、でもこう思った。

一番大切なのは、自分がどう思えるか、納得できるか、なのだな、と。まだ見ていたいと思う、まだできるんじゃないかと思う、でも一ファンの思いよりも何よりも大事なのは、自分が「もう後悔はない」と思えるところまでやり切ることができたかどうか、だ。考えれば当たり前のことだけれど。

そしてそれは、本当にやりきったかどうかは、自分自身にしかわからない。

五十嵐さんは、最後の年となる今年もとことん、できることをやり続けた。二軍では「サイドスローにも挑戦した」と言う。

その上で、満ち足りた表情であんなふうに言われたら、もう何も言えない。それどころか、見ているこちらのことも、同じように満ち足りた気持ちにしてしまう。

応援する誰かがこんな風に、晴れ晴れとした笑顔でそこを去るなら、ここにいる私はただ、拍手で、そして笑顔で送り出そう、と、そう心から思った。いや、めちゃくちゃ泣いていたけど、それでもフェンスによじ登る五十嵐さんを見て、泣きながら笑って、そして拍手を送った。手が痛くなるくらい、何度も何度も手を叩いた。

もちろん五十嵐さんにだって、日米どこへ行っても、厳しい声や心ない声だって聞こえることはあっただろう、と思う。プロ野球選手はその結果にいつだって左右される職業だから、どうしてもそういう声はつきまとう。

でも今日の五十嵐さんを見ていて、大事なことは自分を思ってくれる家族や、監督やコーチや、選手や、心から応援してくれるファンなのだ、と、改めて思った。

五十嵐さんは、「今、ヤクルトスワローズは苦しい戦いが続いています。しかし、どんなときも下を向かずに、戦ってきた選手、そして、僕たちを信じ続けてくれた高津監督、そして、コーチの姿を僕は知っています。今一度チーム、そしてファンのみなさんが共に戦い、乗り越えていけると信じています。」と言った。そして続ける。

「僕はこれからも、スワローズがファンのみなさんと共に戦い、喜びを分かち合える景色をずっと見ていたい。みなさん、これからも東京ヤクルトスワローズと共に戦っていってくれるでしょうか。ヤクルトスワローズを愛していってくれるでしょうか。これからもヤクルトスワローズをよろしくお願いします」

自分の手に届く範囲にある、大切に思うものを、まっすぐ愛していけばいいのだ、と。これを聞きながら、改めてそう思う。

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批判にどう向き合うのか、というのは、今年一年私がすごく考えざるをえなかったことだった、と思う。でも五十嵐さんが見せてくれたのは、向き合うのは批判ではなく自分自身だ、ということだった。

いらない、と誰かに言われることはこわい。顔の見えない人にも、ずっと所属していたチームにも。でも、本人がしんみりするのではなく、あんなに満ち足りた笑顔で、やり切った顔を見せられたら、もう誰も何も言えなくなるじゃないか、と思う。そしてその姿は、周りの人を、家族を、チームを、ファンを、笑顔にしてくれるのだ。

愛は時に歪んでしまうことさえあるけれど、五十嵐さんのストレートな愛は、たくさんの人の心を動かした。現役の最後の最後まで、五十嵐さんらしく、まっすぐな姿を見せてくれた。私は外野の端っこでそれを見ながら、一人泣きながら、ただ励まされた。

そうだったよな、いつだって五十嵐さんはそうだったな、と思う。負けている試合でも、どんな試合でも、その投球に私はいつもいつも、励まされた。今日みたいに寒い日に、ただひたすらかっこよかった五十嵐さんの姿を、昨日のことのように覚えている。

自分の仕事に正直であること、まっすぐ向き合うこと。私もそれを忘れちゃいけない、と改めて思う。

そしてきっと、五十嵐さんはこれから先の人生でも、同じようにまっすぐ、自分と向き合いながら、歩いていくのだろう、と、そう思う。

高津さんとたまには一緒に飲みにいきながら、五十嵐さんがまたこれからの「楽しい」日々を、送っていけますように。

五十嵐さんとご家族に、これからもたくさんの素晴らしい日々が待っていますように。

五十嵐さんありがとう、本当におつかれさまでした。大好きです。


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