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【9/27やちくん引退試合】好きな選手がヤクルト以外のチームでユニフォームを脱ぐ

みやさまはやちくんへのメッセージで「ヤクルトに入ってきたときは、守備もバッティングもなにもかも『平均』の選手やな、どうすんのかな、と思いましたが」と、話した。私は口の悪いみやさまのこれが、やちくんのすごいところといいところを、ぎゅっと集めているな、と、そう思った。そう思ったらもう、さらに涙が止まらなくなって、こんなに泣いたのはいつぶりだろうなと思った。思ったけど、そういえばこないだ映画「グランツーリスモ」を見てめっちゃ泣いたことを思い出した。泣いてるがな。

やちくんがヤクルトを去り、いつのまにか5年が経っていた。5年前、朝起きたらトレードのニュースが出ていて、私は何を思ったかそれを見てすぐにやちくんのユニフォームを買い、そして戸田へ行ってやちくんにサインをもらった。やちくんは「新しい番号と、ヤクルトの番号と、どちらがいいですか?」と聞きながら、最後の「ヤクルトの番号」のサインをしてくれた。

やちくんのことを考えるとき、私はいつも、2018年のオフ、松山でどろんこになりながらみやさまの鬼キャンプで練習をしていた姿を思い出す。

あのキャンプはなんだかすばらしくて、旅としてもとても楽しくて、松山という場所が大好きになって私たちは帰ってきた。なおみちも、たいしも、上田も、荒木も、みんなユニフォームをどろんこにして走っていた。そして今、なおみちも、たいしも、上田も、みやさまも、やちくんも、ヤクルトを去った。荒木もまた、ヤクルトを去ろうとしている。すべてのものは、移り変わっていく。5年というのは、野球選手にとってあまりにも大きな時間だ。

努力が全部報われるとは限らない。あのキャンプを終えた翌年、ヤクルトはまた最下位に沈んだ。たいしやなおみちは、ヤクルトでは思ったような結果が残せなかったかもしれない。でもそれでも、あのときの経験が、野球人生になにか、良きものを残しているんじゃないかと、私はそう思う。思いたい、のかもしれないけれど。

やちくんのトレードで、私は初めて、「好きな選手がチームを去る」という経験をした。当たり前にある景色が、当たり前ではないことを知った。(そしてこの5年はもう、そのさよならの繰り返しだったような気さえする)

それでも、やちくんが少しずつ、日ハムの選手とファンに受け入れられていく姿を、私は目にした。オープン戦で、練習試合で、そして交流戦で。やちくんは元気にプレーしていた。そして、愛されていた。

今、移籍したやちくんが、その与えられた環境の中で何とか結果を残そうとし、栗山さんに「開幕のスタメン候補」だなんて言われているのを見ていると、そりゃやっぱりもちろん「いいトレードだったのだな」と言わざるをえない。さみしいけど、今でもまだ引きずっていことあるごとに泣いているわけだけれども、でもこれはやちくんにとって間違いなく大きなチャンスであることは間違いない。

そして同時に、チームメイトや(特にいいやつ杉谷)、そしてファンのみなさんに受け入れられつつあるやちくんを見ていると、ほっとして嬉しくて、涙が出てくる。
私はヤクルトが好きだからほとんどヤクルトのことしか知らなかったけれど、チームそれぞれに色があって、そして良さがあるんだなと知ったことは、このトレードで私にとってもすごく大きなことだった。

あらゆるものが移り変わっていく。変化せずに人は生きていけない。昨日いた誰かが、今日はいないという現実が、世の中にはある。そして時間はそれを当たり前のようにして受け止めて、変わらず過ぎてゆく。あの日の痛みや悲しみを、まるっと受け入れながら。
でもそれでいいのだきっと、と、思う。
もうやちくんはそこにいるのが当たり前という顔をして、三塁側でキャッチボールをしていた。
そして守備固めで出てきて、てっぱちの内野フライをキャッチした。
それでいいのだきっと。(いやよくない。)

ヤクルトの6年、そしてヤクルトを去ってからの日ハムの5年。この中で、やちくんが抱えてきたものは何だったのだろう。入団のときにみやさまに「全部平均点の選手やな」と思われたやちくんは、そこから何を思い、何をしてきたのだろう。戸田のロッカールームで、てっぱちと「どうやったらレギュラー取れるか」を二時間も話し、「俺は守備をがんばるわ」と言ったやちくんは、何を思っていたのだろう。「それでもバッティングが好きでした」と言うやちくんが、心に秘めたものは何だったのだろう。

誰もが、てっぱちやむねちゃんみたいなスター選手になれるわけじゃない。というか、そんな選手はほんの一握りだ。多くは、引退試合もなく、戦力外となってチームを去っていく。ほんの数年でそこを去る選手だってたくさんいる。厳しい世界が、そこにある。「しんどいことの方が多かったですが」と、やちくんだけじゃない、多くの人がそう口にする。

でもその中で、「全部が平均点」と言われたやちくんは、自分だけのポジションを確立し、最後は引退セレモニーをしてもらえるほどの選手になった。てっぱちや、みやさまや、慎吾や、村上くんや、たくさんの大物選手に囲まれながら、内野のすべてのポジションを守り続けた。どんな理不尽なことがあっても、しんどいことがあっても、死球で骨折しても、それでも、自分以外の誰かを決して責めることなく。

やちくんは一人、たくさんの場所を、守り続けた。強く、守り続けた。

「全部が平均点」のやちくんが、それでも愚直に守り続けた姿は、私にはやっぱり、希望だ、と思う。普通の、一般人の、プロ野球選手になんて一生なれない私の、大きな希望だった、と。

もう少しその姿を見ていたかった。どこまでも守るところを、見続けたかった。でもいつだって、そう思うのだろう。いつまでも、そう思うのだろう。

好きな選手が、ヤクルト以外のチームでユニフォームを脱ぐ。それもまた、私にとって初めての経験になった。そのチームにも、そのチームのファンの人たちにも、やちくんが大好きだといった北海道にも、ありがとう、と、そう思う。

やちくん、かっこいい姿をたくさんたくさん見せてくれてありがとう。子どもたちにもいつも優しくしてくれてありがとう。これからのやちくんとご家族の新しい人生がまた、素晴らしいものでありますように。ありがとう。

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