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「やくるとがよわいんじゃなくてあいてがつよいんだよ」とむすめが言う【8/23阪神戦●】

エラーをして走者を出したおっくんは、真っ先にマウンド五十嵐さんのところへ向かった。五十嵐さんは、おっくんに大きく頷いたように見えた。

まだ若いおっくんがそこに立ち、五十嵐さんが投げる時、少なからず緊張だってすると思うのだ。大先輩が投げる時にミスをしてしまったら(もちろん誰が投げる時だって同じなのだけれど、それでも心情的に)気まずいだろうし、「やっちまった感」は大きいだろうと思う。

だけどもちろん(それはもちろんと言える)、おっくんはいつものように、一人でしっかりマウンドに向かった。

そこになんだか、若い野手と、ベテランの投手のすごく濃い、時間を見た気がした。そのエラーから始まる向こうの作戦にしっかりやられて1失点はあったけれど、でもどれも打ち取った当たりだった。五十嵐さんは、若い後輩のミスを、なんとか取り返そうとしてくれたように見えた。

まあそこで失点があったところで、すでに試合は大きな点差で進んでいた。ヤクルトは、今日も負けた。いつもと同じため息を私は何度もついた。

「こんなにお客さんが入っているのに、こんな試合をしていたらダメ」と、小川さんは言う。まったくもってその通りだ、と、私は思う。まあ、「こんなにお客さんが入っている」のは、ビール半額デーだからだけど、と、思いながらビールを飲む。

そりゃもちろん、こんな試合が見たくて何度もなんども神宮へ足を運ぶわけじゃない。こんな試合をするから好きなわけじゃもちろんない。勝ってほしい、と、思いながらその試合を見るわけだ。「今日こそ勝てるかもしれない…!」と、思うわけだ、私だって。毎度毎度ばかみたいに。

それでもヤクルトは負ける。しょっちゅう負ける。今日は勝って…と、いう日に負ける。なんで私はお金を払って負ける試合をこんなにたくさん見に来るんだ?と、思う。「観戦勝率」はえらい数字になっている。

とぼとぼ歩く帰り道、銀杏並木で「はー弱いなー」とつい口にする。本当に、弱い。

だけどむすめは言う。

「うーん、むすめちゃんはよわいとはおもわないなあ。だってさ、びっきーもうったし、てっぱちもうったし、ふたりともなんかすごいきろくだったでしょ?やくるとよわくないよ、あいてがつよかったんだよ」と。

「そうだねえ、相手がめっちゃ強かったね」と、私は思わず笑う。そうだ、今日はたまたまたくさん打たれちゃっただけだ。たまたまがちょっとあまりに多いけど。

神宮の景色は、ばかみたいに負けてばっかりのヤクルトと、それでもマウンド上で会話をかわすベテランと若手の図と、半額のビールと、夏の花火と、そして子どもたちとの会話に彩られている。負けても負けても、そのどれもが私にとってはやっぱり、とても愛しい景色だ。

「負けてもいい」わけじゃまったくない。そして戦う本人たちはもちろん、「負けても仕方ない」なんて思っているわけもない。でも、見ているこちらが、負けて嫌いになるわけじゃ、ない。どんな時だって、そして誰だって、負けることは必ずあるのだから。

そうして私は今日もむすめの頭をポンと叩いて、エネルギーをもらう。こういう日もあるね、と、笑う。今年の夏も、あと少しだな、と思いながら。


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