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今日のお弁当は昔のカス

娘のごっこ遊びが好きで、彼女の独り言の節々を聞き取っては、ああ、こういうことしてるんだと見守るフリをしつつ盗聴している。実は盗撮もしていたのは内緒の話だけど、証拠がまだスマホに残っている。

昔、友人がストーカーで訴えられたことがあって、あいつもこんな気持ちだったのかと、当時のことを思い出した。好きすぎてつい、と彼も言っていた。そしてやっぱりスマホに証拠を残していた。

もし家族でなければ、訴えられるくらいの自覚を持っている。500m以内の近接を禁じられても、粛然と受け入れてこうべを垂らすつもりだ。



幼い子供の遊びを見ていると、あるつもりなったつもりで空想の世界に出たり入ったりしていて、見ているだけで楽しい。

私が少年時代に使っていた、古くなり錆びかけたミッキーマウスの銅板がついた鉛筆削りを、ある日娘が見つけてきた。

蓋をあけると、中には削りカスがたくさん入っている。最後に使ったのが何年前かわからないけどいつかの私がそのままにしておいた化石みたいな鉛筆の残骸が残っていたのだ。

娘はそれを欲しがって、私がいいよと言うと嬉しそうにした。

それで残った削りカスは捨てるのかと思ったら取り出してハート型の小箱に詰めた。

そして、その小箱と黄色いボンドと赤い鉛筆を2本並べてテーブルに置いたかと思うと「はい、お弁当の準備ができましたよ」と言った。

いつのまにかエプロンをつけた娘が、こっちを見ている。

「はいはい、じゃあお昼になったらいただきますね」と私が言ったら、

「何言ってるの。もうお昼ですよ」と10時20分を指す時計を指差して言った。

「ああ、そうでした」と私は言って、そのテーブルの席に着いた。

「このボンドはなんですか?」
「これは水筒です、お茶が入っています」

「鉛筆は」と言うと「箸です」と応えた。

食べ終えた私のご馳走様のあいさつを聞くと、娘は満足そうにして、ふいっとむこうに行き鉛筆を削りはじめた。

食べ終わった私に、美味しかったかと聞かない娘の、鉛筆のカスで作ったお弁当に込められた興味は4月に降る雪のようにそっと空気の中に消えていた。





サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。