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【連載詩集】No.8 ひとの役になど立ちたくはない

 わたしはもう、

 ひとの役になど、

 立ちたくはありません


「誰かの役に立て」と、

「俺の役に立て」と、

「私の役に立て」と、

 命じてくるような、

 そういうひとに、


「あいつは役に立つ」と、

 夜中に酒を飲みながら、

 にやにやわらって、

 うそぶくようなひとに、


 人生を捧げて、

 自分をすり減らす、

 そういうのは、

 もう、

 とっても、

 たくさんです


 今まで、

 何十年も生きてきて、

 ある日とつぜん、

 こんなことを言い出したら、

 きっと、

 ほとんどのひとが、

 びっくりすることでしょう

 でも、

 わたしはもう、

 誰かにどう見られるかなんてことは、

 まったくもって、

 気にしないことにしました


 わたしは、

 便利屋じゃない、

 ごみ捨て場じゃない、

 首輪をされた奴隷じゃない、

 馬車を引かされている馬車馬じゃない


 わたしは、

 おひとよしじゃない、

 ひとのなやみ相談室じゃない、

 なんでも放り込んでよい空き地じゃない、


 じぶんの感情を持つ、

 ひとりのにんげんなのです


 わたしを利用しようと、

 わたしに近づき、

 そして、

 わたしから、

 離れていったひとの中で、

 わたしのことを、

 ほんとうに、

 たいせつに思ってくれたひとが、

 はたしてどれだけ、

 いるのでしょうか


 わたしが、

 そういうひとたちの、

 役に立ったとして、

 わたしには、

 いったい、

 どんな恩恵が、

 あるというのでしょうか


 わたしのこころが、

 ひとの悩みの毒に塗れ、

 ひどい悪臭をはなちはじめ、

 わたしのからだが、

 長時間労働の疲労に蝕まれ、

 でくのぼうのようになったときに、

 わたしをそんなふうにした、

「ひとの役に立て」と、

 命じてきたひとたちが、

 いったいわたしに、

 なにをしてくれたと、

 いうのでしょうか


 いつでも、

 にこにこ、

 しているひとが、

 いつでも、

 こころも、

 にこにこ、

 しているものだと、

 思い込んでいるひとは、

 とても、

 罪深いことだと、

 思ってください


 そのひとの、

 えがおのうらには、

 くるしみや、

 かなしみや、

 あきらめや、

 どうにも、

 他者には、

 共有できない、

 そういう、

 さまざまな、

 入り組んだ、

 感情が、

 積み重なって、

 いるかもしれません


 ひとの役になんか、

 立たなくてよろしい


 ひとのことばかり、

 気にしなくてもよろしい


 このひとといれば、

 生きることが楽しい


 そんなふうに、

 おもえるようなひとと、

 どんどん、

 なかよくすればよろしい


 このひとの、

 役に立たなければ、

 わたしはわたしで、

 なくなってしまう

 そんなふうに、

 思わせるようなひとには、

 ちかづかないでよろしい


 ひとの役になんか、

 立たなくてもよろしい


 生きることが楽しいと、

 おもえるひとたちと、

 いっしょにいれば、

 おのずと、

 世の中にとって、

 何かよいことを、

 できるようになっているはずだ


 わたしはいま、

 そう思えるから、


 わたしという、

 存在を、

 維持するために、

 ひとの役に立とうとすることを、

 やめるのです


 

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