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多重人格者と同居した話

シェアハウスの同居人が多重人格(解離性同一性障害)だった話を書きます。

解離(カイリ)は、精神医学的に認められている現象ですが、
「多重人格なんて、どうせ演技でしょ。」
と信じてもらえず、理解を得づらい現状があります。

少しでも理解の助けになればと思い、可能な範囲で体験を書き残しておきます。

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前触れはあった。

よく"倒れる"子だった。

リビングで、キッチンで、突然バタンと倒れる。

声をかけても、応答がない。
目は開いているものの、まったく焦点が合わない。

"魂が抜けた"ような状態だった。

最初は「救急車を呼ぶ?」と戸惑っていたが、その必要はないと本人は言う。

そのうち、私達は同居人が"倒れる"ことに慣れてきた。

「頭を打っていないか」
「危ない場所で倒れていないか」

確認して、体を冷やさないようにブランケットをかける。

それがリビングの日常風景になっていた。

ある日。
いつものように倒れていた同居人は、むくりと起き上がって言った。

「…ここドコっすか
 ……誰っすか?」

その台詞、声色、姿勢、顔つきを見て気づいた。

「あ、別人格、出てきたな…」

実は、同居人が倒れる様子を日々見ながら、いつか"別人格さん"が出てくることは予期していた。

僕は昔、偶然多重人格の人と関わった経験がある。
別人格が出てくる時は、姿勢、仕草、声色、目つきが明らかに変わることがあることを、経験から知っていた。

「自分の名前、わかる?」
「、、知らないっす、」

不機嫌そうに"同居人"は答えた。
それからすぐ、また倒れて、元の人格に戻った。

元の人格(主人格)は、人格交代についての記憶はなかった。

ただ、これまでも「記憶にないメモ」「過食した痕跡」「お金をおろした形跡」があったり、「気づけば知らない場所にいたこと」があったそうだ。

これまでも私達の知らないところで、人格交代は起きていたことが推測される。
どうも数年以上、頭の中には"別人格さん"がいたそうだ。

それから、日々めまぐるしく、人格交代が起きた。

男性、子ども、少女、少年、、、

7人ほどの人格が、次々と出現した。

私達はそれぞれに名前をつけ、仲良くした。
人格によって、食べ物の好き嫌いなど、趣味嗜好はまったく違った。
子どもの人格は、日本語がたどたどしく、英語の方が理解できるという。

どの人格も性格のベースは変わらず、真面目で律儀だった。

「向こう(主人格)は、自分で自分を追い詰めるからしんどくなるんすよ」
「こういう考え方したらいいのに」
「僕がなんとかします」
「代わりに我慢してあげるの」

他人格達は、どこか主人格をサポートする役割を担っているように思えた。

「頭の中がうるさい」
同居人の頭の中では、脳内会議が頻繁に行われるようになった。

人格交代は本人の意思ではコントロールできず、トラブルも起きるようになった。

僕の目の前で精神科の薬を大量服薬しようとしたり
あえて玄関のドアを開け放したまま近所を歩き回ったり
新幹線に乗って県外まで行ってしまったり。(解離性遁走)
ある夜には、「助けて」と僕を起こして泣きついてきた。

僕にSOSを出し続ける同居人を前にして、僕としては、自死や遁走の末の事故が怖かった。

同居人は自らの意思で精神科病院に入院した。

入院手続き・初診時には、アピールのためか、人格交代できる環境で安心したのか、乗せられた車椅子の上で10回以上、人格がめまぐるしく交代した。
入院に戸惑う人格、同意する人格、抵抗する人格、様々だった。

お医者さんは、「オールスター登場だねー」と苦笑した。

のんきか。

(ちなみに僕は世話焼きなあまり同居人の情緒・行動に巻き込まれすぎてしまい、同居人が入院した途端「緊張の糸」が切れ、2週間ほどストレス性の胃腸炎に苦しんだ。これは僕のストレスマネジメントの問題である。。)

退院後、同居人は実家に戻った。

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人格交代は摩訶不思議な現象だ。

1人の人格に聞いたところ、精神世界では、自分達は人の形をした「影」なのだという。

暗い中で、一箇所スポットライトのような「光」が射しており、そこに行くと現実世界へ"出て"これる。

主人格はすぐに"どこか遠く"へ行ってしまうため、代わりに交代人格達がスポットライトへ向かう。

スッポトライトの下に向かおうとしても、遠かったり、抵抗力が働いて、出てこれないときもある。

精神世界にいても、現実世界の様子は"見る"ことができ、みんなで鑑賞している。

精神世界の中で交代人格同士の会話はできるが、黙っていて得体の知れない人格もいる。


"交代人格さん"達による解説は、非常にスピリチュアルなものだった。

「一体、人間の脳はどうなっているのだ…」

パソコンに例えるならば、複数のユーザーがハードディスクを共有しているような状況か…?

わからない。
解離性障害は、医学的にも解明されてきってはいない。
(原因として、被虐待経験や性的トラウマ体験が指摘されている。)

少なくとも、多重人格者と少しの間一緒に暮らす経験をした身として言えることは、
「演技ではない」ということと、「受け容れつつ、巻き込まれすぎず、適切な医療・支援につなぐ必要性がある」ということだ。

実感として、解離性障害を抱える人は、世の中に意外と多くいる。
少しでも、解離現象への理解が進めば幸いだ。

使用用途::不登校関連書籍の購入、学会遠征費など