映画で飯を食う

はじめまして。

コロナウイルスが世界的に猛威を振るっている中、私が長年携わってきた映画業界も、公開延期やイベントの中止、劇場の閉鎖など様々な影響が出ていることを耳にしており、とても心苦しく思っています。

不要不急なエンタメはこんな時、真っ先に切り捨てられるものでしょう。そんなものになぜ、私は6年以上も血と汗と涙を流してきたのだろうか・・・。

宣伝会社で働いている時は、よく人に「映画業界で働くにはどうすれば良いのか?」と相談される機会が多々ありました。しかし、話を聞いていると、漠然と映画業界で働きたいイメージはあるけど、具体的にどんな職種があるのか全然知られていないんですよね。

そんな人たちに私が言いたいのは、誰でも好きなことを仕事にできるチャンスがあるし、入り口は意外と広い!ってことです。

エンタメ業界を目指す若い人が少しでも明るい未来を描けるように、少し自分の仕事観を振り返ってみたいと思います。

まず、自己紹介代わりに職歴を。

①インターン時代

大学3年生も終わりに近づいた頃、私もいわゆる就活をしていたのですが、皆と同じスーツ、同じ髪型、同じ靴を履く毎日にだんだんと疑問を感じ始め、そんなんだからもちろん内定ももらえない。

やっぱり映画に携わる仕事はしたいと思ってたので、大手配給会社も勿論受けましたが書類選考落ち。(多分大学名ですでに落とされていた)

そこで、就活は続けつつ、業界研究してみよう!ってことで、渋谷にある宣伝会社でインターンを始めました。インターン先はネットで検索して、当時好きだった映画を扱っていた会社を見つけたので、そこに決めました。

残念ながらその会社は今は倒産してしまったのですが、、、元社長が吉祥寺にミニシアターを立ち上げたそうなので、ご興味あれば↓(ってここも去年で閉館してたww)

週2、3日のインターンの業務内容は、掃除から始まり、掲載紙の切り抜きとファイリング、オンラインのニュース記事の取りまとめ、電話対応などの庶務。真夏にポスターを持って都内の飲食店を歩き回り、飛び込みでお店に貼ってください!ってお願いしたこともありました。

同じインターン仲間は映画好きが多く、毎日楽しかったし、雑誌やテレビ番組の名前もたくさん覚えました。映画業界は横のつながりが大事だってこともなんとなくわかりましたし、後に就職する会社を知るきっかけもこのインターンでした。

②WEBディレクター時代

大学4年生の3月、夜な夜な遊び過ぎてまさかの内定1社だけ。もちろんそこに新卒で就職したわけですが、その会社はオンライン広告や公式サイトの制作・SNS運用を行う映画業界のインフラ的な企業でした。

ここでWEBディレクターのアシスタントとして、DVD販売サイトのデータベース更新やら、公式サイトの原稿校正をしていました。

③配給宣伝時代

入社してわずか4カ月でなぜか、有楽町の邦画配給会社へ出向に・・・!宣伝部のオンラインチームに配属され、パブリシティ(※後述)のデスク業務や公式サイトの制作進行を担当。試写室があったので、映画見放題でした。映画宣伝の過酷さを目の当たりにしつつ、3年くらいは出向していたと思います。

④WEBパブリシティ時代

出向先から戻り、WEBパブリシティ担当として、どっぷり仕事漬けの日々。ここでの仕事内容は後で詳しく書きます。

⑤広告制作時代

色々あって一旦映画から離れました。交通車内や駅広告の制作進行やCMに携わり、クリエイティブな方たちと仕事をすることで、刺激溢れる日々を過ごしました。


映画は劇場で公開されるまで、どのような人たちが携わっているのか?ここでは日本映画を例に説明します。(洋画はまた勝手が違うので)

まず、配給会社が企画して「この監督とこの役者で映画を作るぞ!」となったら、製作委員会というものを組み、製作するための資金を集めます。

製作委員会の座組みは、配給会社や製作プロダクション、テレビ局、芸能事務所など。それぞれに出資率が決まっていて、公開した映画が赤字になってしまうと、出資額の分だけ委員会も打撃をくらうということです。

映画宣伝は大きく分けると

・製作宣伝(撮影中の記録を残す。後にDVDの特典や、パンフレットのテキストになったりする)

・劇場宣伝(映画館により多くの人が足を運ぶよう一般層にプロモーションすること)

の2つがあります。私が長くやってきた業務は後者にあたります。

撮影中も情報出しなどの仕事はありますが、基本的には映画が完成した段階で私たちの仕事はスタートします。

宣伝チームについては、1作品につき下記のような座組みで動きます。(私はいつも体育祭みたいだと思ってました)

・宣伝プロデューサー(宣伝予算を管理する人。宣伝プランの立案。宣伝におけるリーダー)

・電波パブリシティ

・紙パブリシティ

・WEBパブリシティ

他にも、企業タイアップ担当や、公式サイト・SNS担当、広告担当などがいます。

ここで、パブリシティとは何か?

広告は安易に想像がつくと思います。メディアの枠を買って、商品を打ち出すということですね。テレビCMや雑誌・新聞の広告など色々あります。

パブリシティとは、一言で言えば広告の逆です。無料枠でメディアに映画を紹介してもらえるよう交渉と調整を行うことを意味します。

邦画は特に洋画と比べると予算が格段に少ないので、このパブリシティが重要視されていると思います。

よくバラエティ番組でタレントがゲスト出演して最後に映画の告知をしますよね?あれもパブリシティの仕事です。

私はオンライン部門のパブリシティを担当していたので、具体的にはこんなことをやっていました。

・リリース作成と配信

リリースとは、メディアが記事を書く元になる原稿のこと。ネタ元ですね。これと写真や動画素材をもって媒体に映画を紹介してもらえるよう、交渉します。

以下は、実際に掲載してもらった記事です。


・インタビュー取材のブッキング

キャストの稼働日が決まると、インタビュー取材の交渉がはじまります。キャストと媒体の仲立ちになって、ひたすらに内容を調整、、なかなか大変です。取材後の原稿校正と写真チェックもやります。


・イベントの呼び込み

完成披露試写会や、初日イベントなど、映画の公開までに色々なイベントを開催します。なるべく多くのメディアが取り上げてくれるよう、宣伝プロデューサーと話し合い、イベントの内容を精査します。

・マスコミ試写会の呼び込み

公開前の映画をライターさんやインフルエンサーの方に観ていただけるよう試写会を開催します。時には一般向けに試写会を開催することも。


このようにして紹介された記事は全てリストにまとめ、逐一配給会社に報告します。

華々しい仕事のように思われるかもしれませんが、これらは業務の一部で、ほぼ事務作業と打ち合わせで一日が終わります。対面交渉のテレビと違い、オンラインの媒体とのやりとりはメールと電話が基本なので、メールの量も膨大でした。

正直、映画宣伝に特別なスキルは要りません。最低限、ワードとエクセルが使えれば、あとは人間力。そしてコミュニケーション能力。

メディアの担当者と仲良くなればなるほど、露出も増えます。多分。

映画業界と残業問題については、次回書きたいと思いますが、コミュニケーションが大事な業界だからこそ、人間関係で行き詰まったり、精神的に追い込まれることが多々ありました。納得のいかない理由で何度も何度も怒鳴られました。それでもやっぱりこの仕事をして良かったと思います。

自分が仕込んだ記事がYahoo!トップを獲った時、目標としていた黒沢清監督と一緒に仕事ができたこと、そしてその作品がカンヌ国際映画祭で上映されたこと。「聖の青春」という素晴らしい作品で松山ケンイチさんの役者魂に触れたこと。私自身が映画との出会いに救われてきたからだと思います。

最後になりますが、映画というコンテンツにちょっとでも興味を持っていただけたら嬉しいです。エンタメを愛する人たちが、いつまでも自分らしく働ける世の中であることを願っています。

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