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良い居酒屋の見分け方

むらじおパーソナリティのコーキー(仮)です。今回のむらじおnoteのテーマは「居酒屋」。緊急事態宣言が発出されている現在、気兼ねなく居酒屋に行けていた頃が遠い昔に感じられてしまいます。


日本人と居酒屋

日本における居酒屋の起源には諸説あるそうですが、現代の居酒屋の原型が江戸時代に完成されたことは論を俟ちません。もともとはいわゆる「角打ち」のような、酒屋にいながら酒を呑める形態の店が流行り、このことを「居酒(いざけ)」と呼称するようになって「居酒屋」という言葉が生まれたそうです。

日本の居酒屋の特徴として、物を食べながら酒を呑むという点が挙げられます。何を当然のことを、と思われるかもしれませんが、日本の居酒屋のように豊富な種類の肴を食べながら酒を嗜むことのできる店というのは実は結構なイレギュラーだったりします。私も、以前台湾に旅行で行った際に、食事ができる店と酒を呑む店がかなり明確に分かれていて驚いた覚えがあります。最近は日本式の居酒屋も増えてきていますが、決してスタンダードにはなっていなかった印象があります。

そのような「食事とお酒を一緒に嗜む」文化が発展した理由の一つとして、日本人はもともとあまりお酒に強くない民族だということが挙げられます。正確には日本人に限らずモンゴロイド全般に言えることですが、飲酒時に発生する有害物質であるアセトアルデヒドを分解する酵素(ALDH2)を日本人の約44%は持たないもしくは働きが弱く、アセトアルデヒドが貯まりやすいのです。この遺伝的性質は日本人などのモンゴロイド特有のもので、アフリカ系やヨーロッパ系の人種には見られません。

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出典:樋口進 編
『アルコール臨床研究のフロントライン』より

アルコールだけを体内に入れるよりは、何かを食べながら呑んだ方が酔いのまわりが穏やかになるのは感覚的にもよく理解できます。そういう意味では酒と肴を同時に摂ることのできる居酒屋は日本人にうってつけの形態といえるでしょう。

加えて、日本では古くから主食としてのご飯のみならず、神事としてのどぶろく、嗜好品としての日本酒という具合にお米が生活、文化、風俗、宗教と密接にかかわってきました。お米を中心とした食生活がおかずという概念を創り、肴という概念を創ったのだとすれば、先述の「穏やかな酔いのために酒肴とともに嗜む」という呑み方は、実益に文化的な意味が内包されているという解釈もできて歴史の奥深さを感じます。

ところで、良い居酒屋を見分けましょう


ここで突然ですが、個人的な「良い居酒屋を見分けるポイント」を紹介します。ここで言う「良い居酒屋」とは「適正価格でひと手間かかった季節ごとの料理を出し、店内が最低限の清潔さを保つことで居心地の良さを担保している個人もしくは小規模チェーン店」といったところでしょうか。和民とか魚民とかはなの舞とかを否定するわけではありませんが、私は上記のようなお店が好きなのです。全国チェーン店は学生のときに一通り行っておけば充分です。

ポイントその1:ビールの銘柄

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大前提として、そのお店の生ビールの銘柄がサントリーのプレミアムモルツで、且つ瓶ビールもプレミアムモルツしか置いていなかったとしたら論外です。さっさと他の店を探しましょう。理由は後述します。とにかくビールがプレモルしかない店に初見で入ったら十中八九爆死します。他の主たるビールメーカー(サッポロ、アサヒ、キリン)を扱っていたのなら、ひとまず店選びのスタートラインに立てた、というところです。
そのお店が何のビールを扱っているかを知るには、まず食べログなどのグルメサイトでドリンクメニューをチェックします(サイト掲載後に取扱い銘柄を変更している場合もあるので妄信は禁物ですが)。
メニューに記載がなければGoogle検索などで出てきた店内や料理の写真に写りこんでいるビール瓶やグラスのロゴで判断するのが良いでしょう。ストリートビューで店外にビールケースが積まれていないかチェックするのも手です。それでも判断がつかない場合はアイドルタイムに電話して確認することをお勧めします。

ポイントその2:提灯

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三朝温泉にある歴史の証人

いわゆる「大衆酒場」といわれるようなお店だと、店の入り口に大きな赤提灯がぶら下がっている場合があります。非常に風情があって好きな店構えですが、その提灯に「店名が入っているか否か」を是非見てみてください。

写真のような店名入りの赤提灯、以前は出入りの業者が開店祝いなどでお店に協賛することもありましたが、そういった風習は20年ほど前になくなりました(古い旅館のお風呂場の鏡にビールメーカーのロゴ入りの物があったりするのも同じ理由です)。また、「一寸一ぱいお気軽に」という文字の入った赤提灯はよく見かけますがですが、これは別途発注すればどのお店でも購入できるものです。

つまり、店名入りの提灯がぶら下がっているお店はそれだけ昔から存続しているお店であり、良い店である確率が高いといえます。
とはいえ、「一寸一ぱいお気軽に提灯」も、店名入りの提灯の破損による買い替えという場合もありますので、赤提灯だけで判断するのは少し早計です。
参考:https://fujitadougu.com/teppan/tep_chochin_15.html

ポイントその3:看板

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門前仲町にある天国の入り口

ポイントその2との合わせ技でお勧めしたいのが、お店の看板にビールメーカーや日本酒メーカー(「大関」「白鹿」など)のロゴがあるかどうかを確認する方法。赤提灯と同じ理由で、メーカーのロゴ入り看板があるお店は長年続いているお店である証拠です。且つ、ロゴ入り看板のあるお店は名店の確率が飛躍的に上がります。

理由は、メーカーが開店祝いで送るものの中でもロゴ入り看板は価格がかなり高いので、看板をプレゼントしたとしてもそれに見合うだけの酒を売ってくれるだろうという見込みが立たないとメーカーも協賛しないからです。要は繁盛店になる見込みの高い店だとメーカーが判断した証がロゴ入りの看板なのです(写真も、分かりにくいですが「富貴」のロゴ入り看板です)。

ポイントその4:店内のにおい

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徳島駅前で天国に一番近い店

さて、これまでのチェックポイントを首尾よく通過したのでいよいよ入店です。その際、嗅覚に意識を向けておきましょう。古いだけの店にありがちなのは、「不潔さを長年の味と勘違いしている」ということです。古くても丁寧な掃除で清潔さを保っているお店は沢山あります。そういうお店と単に古いだけのお店の違いは店内のにおいに如実に現れます。

良い店は、仕込んでいる料理や調理中の料理のにおいと店内の家具や調度品のにおいが相まっても全く不快になりませんが、古いだけの店は何とも言えず饐えた臭いがします。万が一不快なにおいがした場合は踵を返して別の店を探すことをお勧めします。
やむを得ずそういった臭い店に入らざるを得ない場合は、生ビールだけは避けましょう。店内の掃除もロクにしていない店が生ビールサーバーの洗浄をこまめにやっているとはとても思えません。そして洗浄がしっかりされていないサーバーから注がれた生ビールほど臭い飲み物はありません。

ポイントその5:瓶ビールのグラス

赤提灯・看板とまったく同じ理由で、瓶ビールのグラス、いわゆる「6オンスタンブラー(6タン)」にビールメーカーのロゴがあるかどうか見てみましょう。もうビールメーカーはロゴ入りの6タンは製造していないので(生ビールのロゴ入りジョッキは勿論作っています)、ロゴ入りの6タンがある店は良店の可能性が高いです。ただ、ロゴのない6タンでもがっかりすることはありません。わざわざお金を出して無地の6タンを購入しているお店ということになるので、瓶ビールにこだわりのあるお店だという推測が成り立つからです。

生ビールのジョッキはメーカーから無償でもらえるため、お店によってはその最小サイズを瓶ビール用のグラスとして流用している場合もありますが、同じ瓶ビールを呑むのでも6タンで呑むのと他のグラスで呑むのとでは味が全く違います。瓶ビールを呑むことに特化したサイズである6タンを使っているお店は良いお店だと考えてよいでしょう。

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↑こういうビールのグラスを6タンといいます。このお店も最高です。


ポイントその6:お通し

ドリンクと一緒に運ばれてくるお通しも見逃せないポイントです。業務用の出来合いのポテサラやきんぴらごぼうなのか、もしくは今日仕入れてメニューにした食材の余りを上手に再利用した一品なのかで客のテンションは全然違ってきます。それを踏まえたうえでどのようなお通しを出すのか。お通しにはお店側の商売への心構えが如実に反映されているといっても過言ではありません。嬉しくなるようなお通しが出てきたら、もう大丈夫。安心して呑りましょう!
まずは黒板などに書かれた「本日のおすすめ」的なものから攻めたいですね。ドリンクのおかわりはまだいいですか?

番外編:お店が歌いだす

これはちょっと抽象的ですが、良い店というのは賑わってくると「お店が歌いだす」ように感じられる時があります。単に客の声が大きくなってくるとか騒々しいとかそういうことではなく、店内BGM、客の喋り声、スタッフの声、調理の音などが一体となって協奏曲のように聞こえてくることがあるのです。これを私は「店が歌う」と表現しています。チェーン店などで良くある、バイトスタッフの方の「ハイヨロコンデ-」的な形だけの威勢のよさとは対極の、店と客との対等なコミュニケーションから生まれる居心地の良さと、それによって醸成される前向きな空気感が、お店に生命を吹き込むのです。

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↑これはお店が歌いだすというか、お店で歌いだしてるだけですね。

ちょっとした裏のはなし

さて、ポイントその1で述べた、プレミアムモルツを避けるべき理由とは。赤提灯や看板と同じ、いやもっとどぎつい理由なのですが、プレモルを使うといろんな方面からいろんな協賛をもらえてしまうのです。だから、特にポリシーのないお店ほどプレモルを使うのです。
大体、本当にプレミアムなビールなら199円とか299円で出せるわけがないし、学生向けの居酒屋の飲み放題メニューに入っているはずがありません。「プレミアムなのにこの値段なんてお得ー!」と思わせることに成功している点でサントリーは商売上手だという評価は可能ですが、そこに魂はありません。

なお、一番魂のあるビールメーカーは、以前スペルミスで世間をにぎわせたあそこです。あのメーカーは開店時の協賛をほとんどやらない(予算的にできない)のですが、裏を返せば、それでもそのメーカーを使っているお店にはポリシーと魂があります。そしてメーカーもその期待に応えるべく旨いビールを作り続けています。これこそ魂の連帯といえるでしょう。

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北海道で積み重ねた自社の歴史に敬意を払う日本最強のビールメーカー(私見)

さあ、今こそ居酒屋に行こう

というわけで、緊急事態宣言が明けたら、いや、宣言下だろうがそうではなかろうが、感染症対策を万全にしたうえで呑みに行かれる際は是非上記を参考にしてみてください。居酒屋は300年以上に亘ってこの国を支えてきた文化であり歴史です。それをスケープゴートにした現政府のやり口には、はらわたが煮えくり返る思いです。
単に生命を維持するだけの飲食で人間は生きていけるのでしょうか。答えは否です。人間らしさとは、人との繋がりを、実空間と時間軸を通して実感することで培われるものです。
時間軸を通した実感とは、過去に触れ、未来を夢想することです。江戸の時代から多くの人にとって居酒屋は人との繋がりを実感できる場であり、また、歴史を重ねて以降は過去と対話できる身近なタイムマシンでした。

今一度、居酒屋の果たしてきた功績に想いを馳せつつ、今夜も一寸一ぱい、お気軽に呑りましょう。


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