医学的知識を詰め込むだけでは適切な医療を提供できない?
先日,大学における授業で「解釈モデル」について講義を受けた。
医師が独断・主導で治療を進めるのではなく,医師と患者の双方が納得のいく治療を展開する臨床技法である。患者中心の医療を提供するうえで重要な考え方である。
解釈モデルとは,疾患に対して患者が感情,解釈,影響,期待を持つかを探索する技法である。患者が疾患に対しどのように感じて考えているのか,そしてその疾患が生活や行動にどのように影響を受けて,医療に何を求めているのかについて考える。
私が薬剤師として勤務する薬局の患者を思い出した。
その方は70代女性で肩関節の痛みを主訴に整形外科を受診しており,受診後日薬局に電話がかかってきた。整形外科で処方された解熱鎮痛剤のロキソプロフェンを服用しても肩の痛みが全くとれないと。痛みの影響で家事ができないこと,またこの状態が続くことに不安があるとのこと。その電話の場では,痛みがひどく続くようならば再度受診すること,また副作用を考慮して決められた用法用量を守って過剰服用しないよう伝えて終わった。
後日その方が薬局に来局された。
医師に薬が全く効かなかったことを話したらしい。患者自身は他の鎮痛剤を希望していたようだが,医師から以下のことを話をされて納得をしたらしい。
ロキソプロフェンには抗炎症作用がある。肩の痛みは炎症を起因としているから,まずは1日3回きちんとロキソプロフェンを服用すること。まずは3カ月間きちんと服用して痛みの様子をみましょう。それでも改善が見られない場合は他の外科的処置を考えます,とのこと。
この患者を解釈モデルに当てはめると,
感情:肩が痛く腕が上がらない。
解釈:この状態が死ぬまで続くことが不安。
影響:肩が痛くて家事ができない。洗濯物を干せない。
期待:早く治してほしい。薬を飲めばすぐ痛みが治まる?今まで通りの生活をできるようにしてほしい。
といったところだろうか。
患者自身が話していたことは,
肩が痛む原因,いつまでこの薬を飲む必要があるのか,治らなかった場合はどのような対応を行うのか見通しをつけられて納得できたとのことらしい。
診療において,患者が医療に何を求めているか考えることが非常に重要だと感じた。医師は診断してその疾患に対する薬をただ処方するイメージが先行していた。そうではなく,医師は患者自身を全人的に理解し,求められていることに応じなければならないと感じた。患者が求めることは直接言葉で伝えられないことが多々あると思われる。患者の解釈モデルを会話や質問から引き出して診療する必要があると感じさせられた。
医学的知識を詰め込むだけでは適切な医療を提供できないと,改めて感じさせられる体験だった。
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