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大阪万博は失敗に終わる ― 3 愛知万博の「おもてなし」でさえ・・・

3日のnote 大阪万博は失敗に終わる ― 1 開催テーマを知っていますか?|中村むねひら (note.com) の最後にこのような愛知万博の会場運営計画の「ホスピタリティ」について紹介しました。
 
すべてのスタッフが「ひとりひとりが出演者(キャスト)」という自覚を持ち、「おもてなしの心」をもって笑顔と献身的な姿勢でサービスに望むことで、来場者に対するホスピタリティを高める。
http://www.expo2005.or.jp/jp/pdf/20050223172910286_14_T1.2_14.pdf
 
日本語が変ですが、ディズニーランドの「ホスピタリティ」を参考にしたのでしょうか。
 
2005年10月9の記事からです。5000字を超えるレポートであり、「記録」としてnoteであり、ゴシック部分1カ所だけお読みください。
 
 
日本一厳しい愛知万博評価レポートの第三話は「おもてなし」についてです。
 
愛知万博の会場運営計画の「ホスピタリティ」
 
結論は、今の「官」におもてなしを求めることは、「瓜のつるに茄子を求める(無駄な努力、良い結果になることはないの意で使用)」ようなもの、ということです。
 
管轄する経済産業省は昨年、経営革新の指南書「上質サービス企業造りの法則」をとりまとめ公表しました。ディズニーランドを運営する㈱オリエンタルランドなど日本の「上質サービス企業」から学ぶべきであるという内容も書かれています。
 
しかしながら愛知万博の企画、運営はかなり低レベルでした。とても「上質サービス」とは言えませんでした。その原因は「経済産業省や博覧会協会が、ディズニーランドから何も学ばなかったことに尽きる」と私は考えます。
 
 
まず、こちらを読んでみてください。(博覧会協会公式ホームページに記載されていたものです)
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◆会場運営の計画基本的な考え方
 
愛知万博の運営は来場者に対する「安全の確保」、「快適・利便性の追求」、「ホスピタリティの充実」を基本原則とし <中略> ワンランク上のサービス提供を目指し、演出性と快適性、利便性を兼ね備えたサービス施設の充実を図る。
 
◆日本国際博覧会協会会長のメッセージ
 
私たちは愛知万博のテーマである“自然の叡智”を縦糸に、豊かな交流を横糸にして、地球社会を包む、柔らかく、豊かさと美しさにあふれる織物を織り上げようと思う。人間らしい交流の原点とは、何だろう。それは人が人と出会い、語り合い、理解し合い、尊敬し合い、愛し合うことにあるのではないか。
 
AICHIに集まろう。互いに見つめ合い、微笑み交わし、抱き合い、多彩な知恵の交流する世界を、全身で体験し、全感覚で楽しもう。
博覧会協会公式ホームページより
ホームページ | EXPO 2005 AICHI,JAPAN
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21世紀はホスピタリティの時代といわれます。愛知万博に限らず、今や企業から大学、地方自治体までもがホスピタリティを追求しています。
ホスピタリティ・ビジネスで成功したディズニーランドのおもてなし方法についても、学者やコンサルタントなど多くの方々が持論を展開していることはYahoo!やGoogleの ホスピタリティ ○○○ の検索結果からも明らかです。
 
愛知万博博覧会協会がホスピタリティやおもてなしをどのように解釈して使用しているのか、私には全く分かりません。
そこで、必ずしもホスピタリティ=おもてなしではありませんが、今回はおもてなしという言葉に絞って愛知万博が目指した「ホスピタリティの充実」について述べてみたいと思います。
 
 
はたして博覧会協会会長のメッセージや運営の基本的考え方が、万博会場内で具現化できていたのでしょうか。
スタッフが「ワンランク上のサービス」を来場者に提供できていたのでしょうか。
 
東京ディズニーランドの元スーパーバイザーの目で実際に見てみると、残念ながら応えはNOであったと言わざるを得ません。ディズニーランドのキャストの仕事ぶりと比較すると全てが「手抜き」に見えました。
 
 
私は当初から8月の終盤から9月の初旬に視察にいく計画を持っていました。理由は4つです。
◇テーマパークの運営経験上、夏休みのピークが過ぎたこの時期はスタッフの気が緩み、顧客へのサービスが緩慢になる。
 
◇駆け込み来場者が増え混雑する時期であり、より会場内の問題点がクローズアップされることが予想される。
 
◇開場後の5ヶ月間で主催者側はどれくらいの運営知識を蓄えることができたかを確認できる時期である。
 
「サツキとメイの家」に関するゴタゴタなどをみて、協会の運営レベルの低さは当初から分かっていましたが、閉幕するまではスタッフや協会の批判をすることだけはやめようと考えていました。
 
低レベルの現場運営を見れば批判したくなるものです。でも、一生懸命働いているスタッフはなにも悪くはありません。
プロ野球やディズニーランドも同じですが、指導監督する側にすべての結果責任があるのです。
 
体験すれば早く批判したくなる。「意見箱」にも投書したくなる。そしてその批判がスタッフに届いてしまえば自信を失う人も出てくるかもしれない。訳が分からずに「叱られる」スタッフが出てくるかもしれない。だから閉幕が近づいた時期しかない。
このように考え、最終コーナーを回った頃の視察を計画しました。これが4つ目の理由です。
 
私は全てを批判的な目で見てきたわけでは決してありません。褒めるべき人に出会えればほめたいと考えていました。
 
混雑のため数人のスタッフとしか接することができませんでしたが、JR東海が提供する超電導リニア館のスタッフの応対はとてもよかったと言えます。
(ちなみに東京ディズニーランドでは、1人のゲストは一日に約100人のキャストと接しています)
 
「山梨のリニア実験線では、車両の速度が時速500キロに到達するまでにどれだけの時間を要しますか」という質問に対し、無線機で他のスタッフに確認をしたうえで「90秒です」と教えてくださいました。
回答をいただけるまでの時間はかかりましたが、このスタッフの応対は、とても丁寧で気持ちの良いものでした。
 
企業館以外のスタッフはどうであったのでしょうか。
 
玄関を見るとその家の様子が分かるとも言われます。テーマパークも万国博覧会も同じです。入り口のスタッフの応対ぶりにより、会場内のスタッフの接遇レベルが推察されます。
 
結果は残念というより、指導者の教育姿勢と現場指導姿勢を疑ってしまうものでした。
入園口のスタッフや手荷物チェックのスタッフは、日本という看板を背に各国からの来場者と接遇するのです。
ウエルカムの気持ちを全身で表現することが大切ですが、とても残念なことに挨拶でさえもキチンとできていませんでした。と言うより挨拶は仕事ではないと考えているように思えてしまいました。
 
入園口の端から端まで全てのスタッフの応対ぶりを見ましたが、合格点をあげられるのは両サイドの「全期間入場券」ゲートの女性スタッフ二人だけ。
この二人は「目を見て こんにちは」という接遇の基本がしっかりできていました。
元気のよさはあまりは感じられませんでしたが・・・・
 
 
確かに入り口のスタッフはとても大勢の来場者に対応します。一時間に500人以上の人と接遇することでしょう。
しかしながら、おもてなしとは丁寧な接遇の積み重ねが基本です。奇策も秘策もありません。
大切なことは、目の前にどんなにたくさんの来場者がいようとも、一人ひとりのお客様に対してベストを尽くすことです。
 
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ディズニーランドでは「群衆」という言葉を使いません。たとえ多くの人たちでも「かたまり」とは考えてはいけないのです。別々な顔と名前と考えを持った別々な人として対応します。人々は誰だって群衆の一人として扱われたくありません。
「すべてのゲストがVIP」東京ディズニーランドで教えるホスピタリティ 本文より 
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このように考えなくては良いおもてなしは絶対にできません。
繰り返しますが、接しているお客様を決して「大勢の中の一人」とは考えてはいけないのです。
 
「群集」という言葉がでてきました。
話はそれますが、ここで「使用すべき言葉」について述べておきます。
 
よく雑踏警備とか群集心理とか、雑踏、群集がつく言葉が使われます。
愛知万博でも雑踏事故防止など、この言葉が使われています。
 
デモなどに関する報道なら別ですが、より良いおもてなしを、と考える人がこの言葉を使うと物事の本質が分からなくなります。
使用しないことをお勧めします。
 
会場内でたくさんの警備員さんを見かけましたが、警備員さんは「群集警備をしている」と考えてはいけません。
なぜならば雑踏、群集という言葉を使うと、多くの来場者や観客が本当に「雑踏」「群集」に見えてきてしまうからです。それは時間の経過とともに定着し、いずれ何の疑いもなく「人間のかたまり」を扱っているというように勘違いをするようになります。
 
それは明らかにおもてなしマインドを低下させてしまいます。
 
一般的に「木をみて森を見ず」は良くないことですが、大勢の人におもてなしを提供する人は「森を見て木を見ず」の方がもっと良くないことです。
 
メディアや役人はこの雑踏、群集という言葉をよく使いますが、日本人に対しては使って欲しくありません。
多くの観客、観衆などという言葉を使用すべきです。
 
行列という言葉も同様ではないでしょうか。少なくともおもてなしを提供する場所にふさわしい言葉ではありません。
ちなみにディズニーランドではキューライン Queueline キューと呼んでいます。
 
長くなってしまいました。愛知万博のおもてなしの話に戻ります。
 
スタッフ同士のこんな会話も耳にしました。
「ハウル観た?」「キャンプには行ったの?」若い男女でしたが、会話に夢中!
 
ご高齢の方が「すみません、ドイツ館はどこですか?」と尋ねても
「そこを左に曲がって一番南です」 これだけでまた会話に戻ってしまいました。
 
コメントする気にもなれません。
 
 
おもてなしの基本は一人ひとりのお客様の気持ちを真剣に考えることです。
あるパビリオンで車椅子を利用されている方とそのご家族が、車椅子での入場方法を入り口のスタッフに尋ねていました。
 
「車椅子ご利用の方と同行者1名までは優先入場可能」「家族5人の場合は3人が列にならび、車椅子ご利用の方と同行者1名は、並んだ家族が入館する際に同時に入れるシステム」だそうです。
 
「車椅子1台に対して同行者2人、計3人の場合はどうするのですか?」と聞いてみました。
「家族5人の場合同様、1人が列に並んでもらう」という答えが返ってきました。
 
ディズニーランドでは、車椅子1台につき同行者が2人の場合は優先入場が可能です。
(キューラインに車椅子で並べない場合など、詳細はディズニーランドに直接お問合せ下さい)
 
なぜでしょう。
 
ご家族で楽しみに来て頂いているのに1人だけで並んで頂く、それはつまりゲストに「一人ぼっちの時間を過ごさせる」ことを強いることを意味します。これではおもてなしではありません。
 
「真実は細部に宿る」と言われます。
一人ひとりのお客様の気持ちを大切に考えているのか、いないのか。
その思想の差がこのように細部での手順の違いとなって表顕してくるのです。
 
 
混雑している万博会場の中、何回か「ディズニーランド」という言葉が聞こえてきました。すれ違うカップルや涼を求めて木陰で休んでいる家族からです。
 
会場外でも
「列車はまもなくトンネルに入ります。トンネルを抜けますと列車はすぐに万博八草駅に到着します」という電車内のアナウンスを聞いた若い女性グループが「ディズニーランドみたい、期待できるよね」とはしゃいでいたのが印象的でした。
 
万国博覧会ですから当然テーマパークとはお客様の層が違います。ディズニーランドではあまり見かけることのないグループ(浅草や成田山新勝寺で多く見かけるご年配の方々)がとても多いように感じました。
 
それでもディズニーランドに一度も来園されていない方を除き、ほとんどの方はディズニーランドと比較されたのではないでしょうか。
あるいは家に帰り土産話を語ったとき「ディズニーランドと比べて・・・・どうだった?」と家族から聞かれた方も多かったのではと考えます。
 
前述しましたが経済産業省は昨年7月に「上質サービス企業」造りの法則 という指南書を取りまとめました。
その中で日本の「上質サービス企業」とのインターフェイスを強化すべきであるという内容がありました。
つながりを持ち良いところは学び取っていくべきであるということでしょう。
当然ですがディズニーランドを運営するオリエンタルランドもレポートされています。
 
残念ながら今回の愛知万博の企画、運営の低レベル度は、ディズニーランドから何も学ばなかったことに起因すると思います。
 
サツキとメイの家に象徴される諸問題やドタバタ入場制限問題なども、大量集客施設運営の根本的な原則を学んでさえいれば混乱には至らなかったと思います。
この他教育方法、スタッフ指導方法、プレス発表の方法なども学ぶべきでした。
 
予算と時間はたっぷりあったのですから。

大阪万博は失敗に終わる ― 1 開催テーマを知っていますか?|中村むねひら (note.com)
大阪万博は失敗に終わる ― 2 愛知万博から学ぶと・・・|中村むねひら (note.com)

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