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若手の大量退職を防ぐ、DEI&Bの「B」とは?

1.The Great Resignation(大量退職時代)の現在

米国で昨年から大きな社会問題となっているThe Great Resignation(大量退職時代)は、衰えるどころか勢いを増し、2021年11月データでは、ついに過去最高の月間453万人の労働者が自主的に退職という道を選ぶ結果となっている。

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The Great Resignation(大量退職時代)について昨年9月にnoteで書いてから約半年、日本でも似たような現象が起きるのでは?という懸念から、日本のメディアでも注目され始めている。今年1月には、海外の事例と日本の課題について日本経済新聞でも取り上げられている。

The Great Resignation(大量退職時代)が起きる原因、対策等についてもっと知りたい方は、過去記事をご覧ください。

大量(自主)退職時代の到来〜The Great Resignation〜(1)

大量(自主)退職時代の到来〜The Great Resignation〜(2) 会社を辞める10の理由

大量(自主)退職時代の到来〜The Great Resignation〜(3) 退職を防ぐ10の施策

2.日本における若い世代の退職の増加

日本でも水面下で若い世代を中心に自分の働いている会社に見切りをつけて退職する動きが加速し始めていることを受けて、リクルートワークス研究所の機関誌ワークス170号(2022年2-3月号) にて、「若手を辞めさせるな」という特集が組まれている。

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古く小さな飛行機からパラシュートで次々と脱出を試みる若者たちの画像は、鮮烈かつ日本の企業で起きていることを象徴的に捉えているように思う。冒頭の特集にて、「米国の"大量自主退職" 若者たちが辞める理由を探る」という私のインタビュー記事をご掲載頂き、若い世代が退職している理由や背景について述べさせて頂いた。

「自分の悩みを正直に話し、将来の夢を共有する先輩」という存在から徐々に、「自分の偽りの姿を見せるだけの評価者」という位置付けに気持ちが変化してゆく。こういう位置付けとなった上司と1on1などやっても、問題が解決するはずがない。特に若い世代は衝突より協調を選び上手にこなすことが得意なため、上司の立場からは、本当の気持ちや不満など、図ることは不可能に近い。満足そうに働いていたのに突然退職した、とみえるのである。

The Great Resignation(大量退職時代)が社会問題となっている米国では、特にZ世代の退職が加速し、企業文化の改革のために掲げているDE&Iに新たな動きが生まれている。

3.米国で注目されるDEI&Bの「B」とは?

昨年から日本でもD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に加え、E(Equity: 公平性)が重要視されるようになり始め、DE&Iと様々な表記が変わってきた。ところが米国では、更に「B」が加わり、DEI&Bという新概念が広まり始めている。

新しく加えられたBは、Belonging(帰属意識)である。帰属意識とは、組織、地域、グループなどにおいて、自分がメンバーとして受入れられているという安心感のようなものと考えることができる。今まで日本でも帰属意識を高めるための議論もさかんに行われてきている。しかし現在、DEI&BというDEIと組み合わさったBelongingについては、心理的安全性の確保された居場所のような捉えられ方を米国ではされているように思う。

Simmons UniversityのInstitute for Inclusive Leadershipの定義によると、職場環境においてDEI&BにおけるBelongingを高めるために以下のようなアクションが重要であると述べている。

 ・心理的安全性の確保

 ・意図的な参加機会: 会議等、意思決定の場に意識的に巻き込む

何故、DE&Iに加え、Belongingに注目が集まっているのだろうか。企業担当者の視点で考えると、(D)多様性も、(E)公平性も、(I)包括性も用意してより良い職場づくりに尽力しているといえるかもしれない。ところが、働く従業員本人が「居場所と感じない」のであれば、その努力は一方通行なのである。働く個人の観点から見れば、従来のDE&I施策はある意味「企業視点」での取り組みであるとも言える。

職場が働く個人にとって、ありのままの自分を「理解されている」「受け入れられている」と感じる居場所としての、「Belonging」が重要になってきているのである。The Great Resignation(大量退職時代)という社会現象を通して、会社視点での正解(例: 会社が提供するDE&I施策等)ではなく、個人の主観的な視点、気持ちに寄り添うことが求められ始めてきているのである。

4.若い世代が育つ「抜擢」を通じたBelongingの実現

僕が20代の頃働いていた平成の日本の会社では、ありのままの自分が「理解されている」「受け入れられている」と感じたことなどなく、むしろ、会社の社風を受け入れて、自分を変えて合わせろという尋常でない圧力があって、ある種の宗教のようなものだと割り切り、会社の中では違う自分を演じていた。

令和となった現在、若い世代がBelonging、ありのままの自分を「理解されている」「受け入れられている」と感じる居場所に日本の企業は変化を遂げただろうか。新型コロナウィルス感染症というフィルターを通して自分の働く会社を見ることで、日本でも若い世代は更に自分の気持ちに正直になり、退職数の増加が顕著になり始めていると人事関係者から聞くようになってきた。

サイバーエージェント(株) 常務執行役員CHOの曽山哲人氏の著作「若手育成の教科書」を読み、若手の「抜擢」という仕組みは、若い世代の退職に歯止めを欠け、成長を支援してゆくためのBelongingを実現するのではないかと思っている。

その答えは、若手の抜擢により1998年創業時のインターネット広告事業に加え、ゲーム事業、メディア事業の拡大へと変貌を遂げてきた歴史を見れば一目瞭然である。

5.若手の成長機会を作る「リスキリング」

The Great Resignation(大量退職時代)という社会現象が起きている最大の理由は、「企業が成長機会を提供していない」という従業員の不満が原因であることが分かっている。そしてその最良の解決策として米国で今まで以上に注目を増しているのが、企業内で実施する「リスキリング」である。組織が働く個人に期待し、投資をし、成長を支援してゆくことで、自分の働く居場所としてのBelongingを創出する一助になりえるのである。

今年1月のHR Diveの記事 "Upskilling is key to weathering the 'Great Resignation'"によれば、「Z世代は学習する世代である。LinkedInが調査した18歳から24歳の4分の3は、学習がキャリアを成功させる鍵だと考えており、それを行動に移している」との結果が出ている。

米国の企業は若い世代の大量退職を防ぐべく、今まで以上にリスキリングに力を入れている。日本でもリスキリングへの注目が昨年から増しているが、実際に企業で取り組みを開始している企業数となると、まだまだ少ないのが実態である。

前述の(株)サイバーエージェントの曽山氏は、中高年が使うSNSでは若者にメッセージが届かないという理由から、自らYouTubeチャネル「ソヤマン」を開設し、若い世代の成長を支援するためのノウハウを提供し続けている。光栄なことに、曽山氏から出演のご依頼を頂戴し、若い方々向けに今後のキャリアとリスキリングについてお話をさせて頂いた。


YouTubeで話すという経験は初めてで「恥ずかしい」という気持ちを最後まで捨てられなかったことが悔やまれるが、YouTuberとしてリスキリングを経験しているという曽山氏の分かりやすい話し方と比して、自分の稚拙な話し方を向上させる良い学びの機会にもなった。

動画の中で、「リスキリングの仕組みがない会社で働いているのであれば、成長機会がないと結論づける前に、自らリスキリングの制度づくりを会社に提案し、自らの成長機会を作り出して欲しい!」というメッセージを送らせて頂いた。

6.Beloningの主語は「わたし」

2022年1月26日、待望の日本版SSIR: Stanford Social Innovation Review Japanが発刊となった。編集長である中嶋愛氏の編集後記に「主語を『わたし』に戻す。」というとても印象的な表現があった。

長年、採用基準に関する人事用語で「カルチャーフィット」という言葉があるが、この場合の判断基軸は個人ではなく、会社組織である。一方でBelongingの元となっている自動詞Belongをするかどうか決めるのは働く個人、主語は「わたし」である。

雇用の流動化を実現するという重要な命題と共に、個人の成長機会の創出を怠り、働く個人がBelongingを感じることができなければ、若い世代を中心に日本でもThe Great Resignation(大量退職時代)は起きうる。変化を受け入れない「ありのままの」現在の日本企業から優秀な人材は流出し続ける。従来のDE&Iに加え、職場が働く個人にとって、「ありのままの」自分を「理解されている」「受け入れられている」と感じる居場所となるよう、DE&I改め、DEI&B「Belonging」を高める日本企業の取組みに期待したい。

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