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《読書感想》トリックのない人間観察型ミステリー

※あくまで感想文ですが、紹介も兼ねているのでネタバレは含みません。


 ミステリーを読むのが大好きだが、トリックが用いられるミステリーはほとんど理解できないまま読み終わる。そもそも人の話も、授業もネットも理解できないことが大半の私に、知恵者が考えたトリックなど通用するわけがない。時間のトリック→数字が覚えられない。何かしらの小細工→構造が理解できない。
 それでもミステリーが好きだ。混乱が多い日々で、理性的な構成のもと、書かれた文章を読むと安心するから。


 D・M・ディヴァイン『三本の緑の小壜』を読んだ。ディヴァイン氏は60年代に活躍した英国推理小説の名手。私は去年『悪魔はすぐそこに』を読んでいたく感動し、ブックオフオンラインで本作を買ったのである。

 イギリスのとある地方都市、12歳あまりの少女が全裸死体で発見される。狭いコミュニティの中で、犯人と疑われ疲弊した男が崖から転落死した。犯行を苦に自死したと思われたが、その後も少女が殺されてしまう・・。誰が犯人なのか?およそ正常な神経の持ち主とは思えない。また犯行の状況から察するに、犯人は被害者の身近な人物らしい。
 ややこしいトリックは存在しない。一切奇をてらっていない至極正統派なミステリーだ。物語は主人公のマンディ、その妹のシーリア、外部からやってきた医師マークの3人が「わたし」、「あたし」、「ぼく」、と替わりばんこに視点を務め進んでいく。それぞれの立場、想いを通して、周囲の人物を観察する。

 トリックが存在しない分、私でも推理しながら読むことができた。誰も彼もがまんべんなく怪しい。というのも、主人公マンディを中心に取り囲む登場人物たちが全員うろんなのだ。事件が起こってから町にやってきたマークの視点になると、より不気味さが際立つ。イギリスの作品って大体家族仲悪いのどうして?
 誰もが怪しく見えるのはミステリーとして当たり前のことかもしれない。しかし、メタ読みしてみても、真面目に考えても全員が怪しいのは、ミスリードの誘い方が上手いからだろう。

 個人的に、主人公の年の離れた妹シーリアに痛く感情移入してしまった。身体が弱いのに加えて、発達障害を抱え誰からも愛してもらえなかった結果、意地悪で狂暴な少女となってしまったシーリア。みんなあたしのことバカだというけれど、それは間違っている。誰も味方をしてくれないから、全員敵だ!と周囲に攻撃して回るシーリアの姿が、小学生時代の自分と重なって胸が痛かった。

 犯人とその動機が明かされた時、きっと人によって思うことは変わるだろう。起こった現象について考えるのではなく、人の感情を考えて犯人を当てるミステリー。奇をてらったミステリーに疲れた人にぜひ読んでみて欲しい作品だ。
 すっかりディヴァイン氏が気に入って、ブックオフオンラインで未読作品を買えるだけ買ってしまった。届くのがすんごく楽しみ!


ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。📚📖🖋️

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