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#5 JリーグやJクラブが経営情報の開示に用いている決算書ってなに?

公認会計士のゆうと申します。
数あるnoteの記事からご覧いただき、ありがとうございます。

前回はJクラブのHP上における個別経営情報の開示状況について記事にしましたが、今回は個別経営情報に記載されている決算書について説明をしていきたいと思います。
お時間のない方は、目次から4.まとめをご覧ください。

1.決算書とは

各Jクラブの運営会社が作成している損益計算書及び貸借対照表は、クラブの経営状況や財務状態を客観的に把握するための書類であり、これらは決算書※と呼ばれています。決算書は、最終的に運営会社の株主総会の決議事項として、適切なもの(=虚偽のないもの)と承認を受けたのち、Jリーグへ提出されます(【Jリーグ規約】の第26条、第 80 条を参照)。

Jクラブが決算書を作成する目的として、①株主総会での承認のため、②法人税法や消費税法に基づく確定申告書の添付書類として、③金融機関や新たな出資者の投資への判断材料として、④経営者自身の経営判断材料として、⑤サポーターへの決算報告として、及び⑥スポンサーへのスポンサー料の判断材料として等が挙げられます。

※決算書は他に株主等変動計算書や勘定科目内訳明細書も決算書に含まれますが、本財務分析では説明を省略します。
※各クラブおいて会社法の定めにより計算書類(事業報告・貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・注記表)を作成していますが、便宜的に決算書として記載します。

2.損益計算書、貸借対照表とは

次に、決算書の構成要素である損益計算書及び貸借対照表をみていきたいと思います。

まず、損益計算書は、Jクラブが決算までの1年間においてどのくらい儲かったのか、または損したのかを収益、費用(法人税等を含む)、及びその差額である損益の状況を残高で示したもので、英語表記はProfit and Loss statement(PL)となります。

開示をしている各クラブは、HP上においてJリーグが公表している【クラブ決算一覧】の損益総括(又は損益総括の一部)、または損益総括の基となる運営会社が作成の損益計算書のいずれかを用いて公表しています。

次に、貸借対照表は、運営会社の決算日時点における資産、負債、資産と負債の差額を示す純資産の状況を残高で示したもので、英語表記はBalance Sheet(BS)となります。

開示をしている各クラブは、HP上においてJリーグが公表している【クラブ決算一覧】の貸借対照表(または純資産の部のみ)を公表しています。なお、純資産の部のみを開示しているJクラブは、クラブライセンス制度の財務基準である債務超過を意識した開示をしているものと窺えます。

3.クラブライセンス制度の財務基準とは

ここからは、クラブライセンス制度の財務基準についてみていきたいと思います。
JリーグのHPのクラブ個別経営情報の【クラブ経営情報開示資料(2021.7.29現在)】において、以下の内容を公表しております。
2021年度は特例措置期間として財務基準が判定の対象となっておりません。猶予期間の2022年度末及び2023年度末において前年度から債務超過額が増加している場合、特例措置がなくなる2024年度末以降は債務超過が解消されない場合は、それぞれ財務基準に抵触することになります。

2020年度末、2021年度末
【特例措置】
・債務超過、3期連続赤字をライセンス交付の判定対象としない
・2021年度末に新たに債務超過に陥っても判定対象としない

2022年度末、2023年度末
【猶予期間】
・債務超過が解消されていなくてもよいが、前年度より債務超過額が増加してはならない
・新たに債務超過に陥ってはいけない
・3期連続赤字のカウントをスタートする(2022年度末が1期目となる。2021年度以前の赤字についてはカウントしない)

2024年度末、2025年度末以降
【特例措置なし】
・債務超過が解消されていなければならない
・2022年度末からの赤字が継続しているクラブは2024年度末に3期連続赤字に抵触する可能性がある

クラブ経営情報開示資料(2021.7.29現在)より

ここで債務超過とは、貸借対照表の合計がマイナス残高(資産の部合計-負債の部合計がマイナス残高)の状態をいいます。債務超過の解消方法として、①増資を実施することで資本金、資本剰余金の計上額が増加してマイナス残高を解消する、②当期純利益を計上することで利益剰余金の期末残高が増加してマイナス残高を解消する、③増資の実行&当期純利益の計上の合わせ技でマイナス残高を解消するかのいずれかの対応が求められます。

なぜ、①~③を実施することで債務超過が解消されるのでしょうか。
①は、株主となる出資者(または既存株主)が現預金を元手に運営会社の株式を得ることで、流動資産(現預金)と純資産(資本金、資本剰余金)の計上額が増加して負債の割合が相対的に少なくなることで債務超過が解消されます。イメージは下記の図の通りです。

キャプチャ19

②は、クラブ経営が入場料の増加、スポンサー料の増加、リーグ分配金の増加等で収益が好調で利益が増加する場合、収益は前年度と同水準だけと費用を圧縮して利益が増加する場合、収益、費用は前年度と同水準だけと筆頭株主等から支援金という形で特別利益を計上し利益が増加する場合の3パターンで利益が増加した場合において、当該利益を内部留保することで貸借対照表の利益剰余金に振り替えられることになり、利益剰余金の残高が増加(同時に流動資産または固定資産の計上額が利益剰余金と同額増加)することで債務超過が解消されます。イメージは下記の図の通りです。

キャプチャ20

③は、①と②を同時に実施することで債務超過が解消されます。

4.まとめ

5.次回

次回は決算書に記載されている勘定科目について説明したいと思います。

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

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