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#12 財務指標も凄いフロンターレ(2020年度Jクラブ財務分析その1)

公認会計士のゆうと申します。
数あるnoteの記事からご覧いただき、ありがとうございます。

先週末はJ1、J2の降格争いやJ3の昇格争いがとても白熱していてDAZNにかじりつきながら経過を観ていました(エスパルスが残留してよかったー)。

前回は財務分析で使う指標についてみていきましたが、今回から2020年の決算の指標等を使って気になるJリーグの各クラブの財務分析をしていきたいと思います。

今回利用する指標の定義や計算方法は、前回の#11をご覧ください。また、利用している財務数値はJリーグのHPの経営情報の開示数値を利用しています。

お時間のない方は、目次から6.まとめをご覧ください。

1.フロンターレの決算書の概要について

初回は2021年シーズンをJ1連覇で終えたフロンターレをとりあげてみたいと思います。
以下の画像はフロンターレの簡単なプロフィールや決算書等の概要をまとめたものになります。

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近年のJ1クラブの中において圧倒的な強さを示しているフロンターレですが、その強さを支えるクラブの財務面も同様であり、2020年度決算ではPLの営業収益はJFL所属だった宮崎を除く全56クラブ中4位、営業費用は全56クラブ中6位と運営規模はJリーグの上位を位置をしております。

その一方で2020年度決算の当期純利益(または純損失)は全56クラブ中42位(J1全クラブ中8位)と多額の損失を計上した影響でJ1の中位となりました。

ただし、BSの純資産の部合計が全56クラブ中1位であることから、例え多額の損失を計上していたとしても現時点でクラブライセンスの財務基準のうち、債務超過を気にする必要はなく(仮に当期と同じ損失額で債務超過になるのは約12.7年後)、コロナ禍でも他クラブと比較をして余裕をもった経営ができる状況にあります。なお、クラブライセンスについては#5で簡単に説明をしておりますので、こちらを参照ください。

フロンターレが2020年度決算において当期純損失を計上した要因として、以下の2つを挙げることができます。

①2020年6月決定の優勝賞金が300百万円から150百万円に減額された影響
②新型コロナウィルスの影響による興行収益(入場料収入-試合関連経費)の減少による影響

クラブ運営会社は2020年度の予算策定の時点(2019年秋頃)で新型コロナの影響を想定した予算策定をすることは難しく、コロナの流行前の収益や費用を見込んで選手の補強等を考えていたと考えられます。このため、流行が始まる直前の2020年1月時点では所属選手の契約が大方固まっており、固定費となる選手報酬を削減することはとても難しくなります。

また、新型コロナ対策の観客数の上限を抑えた影響により前年度まで入場料収益が多かったクラブほど入場料大きな影響を受ける傾向にあり、フロンターレも興行収益が782百万円(2019年)から240百万円(2020年)と大幅に減少をしました。

よって、フロンターレが本来受け取れるはずの賞金の不足分の獲得(150百万円)や前年度の同額程度の興行収益を確保(542百万円)ができていれば、692百万円の上乗せして利益を得ることが可能だったと考えると、クラブの経営は適切になされていたと考えられます。

2021年度は2020年シーズンの優勝で受け取れるはずだった理念強化配分金(総額1,550百万円のうち、2020年分550百万円)を受け取ることができない苦しい予算設定の中、利益を度返した選手報酬の枠を確保したことによって2位のマリノスに13ptの大差をつける勝ち点92ptでのJ1連覇に繋がったのではないでしょうか。なお、賞金やJリーグ分配金については#7で簡単に説明をしておりますので参照ください。

2.収益性分析について

フロンターレの2020年度の収益性は以下の表の通りとなります。

ここから、フロンターレの収益性指標で気になった項目についてピックアップしてコメントをします。

総資本利益率(ROA)
2020年決算のROAは、▲4.6%でJ1全クラブ中で7位と2019年度の1位(16.6%)から大幅に順位を落としています。要因は、①過年度のリーグ戦の結果で大きく増減するJリーグ配分金が2019年決算時に1,792百万円の計上(2020年決算は1,139百万円)していたため、そもそも2019年度のROAが異常値であり、比率が落ちることは予算策定段階から想定できていた、②コロナ禍で興行収益が542百万円減益となり、リーグ戦の賞金も150百万円減額となったことから比率を大きく押し下げたことが挙げられます。
①、②は運営会社側でコントロールできる内容ではなく、仮にリーグ戦の賞金が満額で計上できた場合はROAが5位相当であることから、指標の悪化はクラブ運営が怠慢になったというよりは、コントロール不可能な要因によるものと窺えます。

配分金人件費率
配分金人件費率はクラブの配分金に対する人件費の割合を示したものでクラブの前年度の戦績に対する人件費効率の良さを示す指標です。2020年度決算のチーム人件費は3,036百万円とJ1全クラブ中4位と決してその金額が低くない中、Jリーグ配分金が1,139百万円と他のクラブを圧倒する計上額であることから、J1全クラブ中最も低い266.5%となっております。

チーム人件費とクラブの前年度の戦績がアンマッチな例として人件費1位の神戸が挙げられます。神戸は人件費が6,396百万円とJ1の中でダントツ1位ではありますが、チームはアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)制覇に向けてチームを強化中であり、Jリーグ配分金の計上額に差がでる理念強化分配金の支給対象年度の2017年がJ1の9位、2018年がJ1の10位、2019年がJ1の8位であることから計上額は0円であり、配分金人件費率は1358.0%とJリーグ最下位となっています。

配分金人件費率が低いことで、フロンターレはJリーグ配分金を過度に選手報酬へお金を投下するのではなく、他の費用に充てることができる理想的な状態になっています。実際に、理念強化配分金の受け取り初年度の2018年は選手強化以外に選手移動用バスの導入やクラブハウスの食堂設置に充てたことが2019年の新体制発表の際に行われていたことが下記のリンクから確認できます。

なお、理念強化配分金が2020年度及び2021年度は配分停止中であることから、2021年度に過年度配分金の150百万円の配分を最後に少なくとも2022年度は理念強化配分金を受け取れないことが確定しています。このため、2021年決算及び2022年決算も当期と同様に比率が悪化して、他の選手報酬が高いクラブの比率に近似していくことが見込まれます。

アカデミー売上利益率
アカデミー売上高利益率はJ1全クラブ中1位であり、他のクラブと比較をして頭抜けて高い率を維持(2018年:65.8%、2019年:63.9%、2020年:70.6%)しています。アカデミー運営経費は、①試合関連経費、②練習場・クラブハウス等賃借料及び関連経費、③その他アカデミー関連経費の3つから構成されており(#8参照)、この3項目のうち、クラブ間で一番費用計上額に影響がでるのは、②練習場・クラブハウス等賃借料及び関連経費と推測されます。

フロンターレのHPのアカデミーの月間スケジュールによると、練習場所は富士通スタジアム川崎、等々力第1サッカー場、FRONTIERS Field、麻生グラウンドとなっており、このうち、麻生グラウンドはフロンターレ所有、FRONTIERS Fieldは親会社である富士通が所有、下記のリンク先の富士通スタジアム川崎や等々力第1サッカー場は川崎市所有の施設であることから、それぞれ実質無料または格安での利用(=賃借料の計上が少ない)が可能となります。このことが、フロンターレは他のクラブと比較をしてアカデミーの収益率が頭抜けている要因であると考えられます。

一方でアカデミー収益は、J1全クラブ中6位と上位にはいるものの、近隣クラブの横浜FMが1位、FC東京が2位に比べると苦戦をしています。そんな中、2021年10月18日付でアカデミーの拠点となる「フロンタウン生田」の工事着工がクラブHPにおいてアナウンスされました。「フロンタウン生田」の完成により、アカデミーの強化やアカデミーの理念の一つである地域密着の強化に繋がれば、クラブとしての格が更に一段上がるのではないでしょうか。

3.安全性分析について

フロンターレの2020年度決算の安全性は以下の表の通りとなります。なお、各指標の一般的な目安は、自己資本比率は50%以上、流動比率200%以上、負債比率・固定比率は50%以下、固定長期適合率は100%以下となります。

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フロンターレは流動比率が一般的な目安を下回っていますが、J1の流動比率の平均は87.1%であることから、J1クラブの中では比較的高い比率となります。なお、流動比率が200%を超えているJ1クラブは札幌(739.9%)、FC東京(498.0%)、広島(333.7%)の3クラブのみとなります。その他の指標は、目安とされる比率をいずれもクリアしていることから、BS残高の構成も経営成績と同様にとても優秀であることが窺えます。

4.成長性分析について

フロンターレの2020年度決算の成長性は以下の表の通りとなります。フロンターレはJ1のクラブの中では規模が上位層に位置することから、成長率の視点で見ると今までの指標に比べると平凡な率となっています。

ここから、フロンターレの成長性指標で気になった項目をピックアップしてコメントします。

スポンサー収入成長率
スポンサー収入は2,097百万円とJ1全クラブ中7位であり、成長率も10位であることから、今のクラブ規模や近年の戦績を考えるとまだまだ成長の余地はあるのではないかと考えられます。

フロンターレは、PARTNERSHIPというスポンサー向けの資料をHPで開示しており、クラブのプロフィール・歴史・ビジョン、パートナーになることのメリット、スポンサー料等が記載されています(下記リンク先参照)。

5.非財務情報について

フロンターレの2020年度決算の非財務情報は以下の表の通りとなります。

ここから、フロンターレの非財務情報で気になった項目をピックアップしてコメントします。

入場者数・スタジアム収容割合・一人当たり入場料収入
入場者数は133,659人(J1全クラブ中4位)、入場料収入は435百万円(J1全クラブ中3位)、スタジアム収容割合は29.3%(J1全クラブ中1位)が上位である一方、観客一人当たり入場料収入は3,255円とJ1全クラブ中7位であることから、スポンサー収入と同様に成長の余地があると考えられます。

スタジアム収容割合がJ1全クラブ中1位である状況を考えると、①シーズンチケットを含むチケット代金の一律または一部値上げ、②ダイナミック・プライシングの採用、③対戦相手に応じた価格設定、④優待券や招待券の配布枚数の縮小等、一人当たりの入場料の上昇に繋がる施策をとる必要があると考えます。なお、2021年度は、①のチケット価格の一律値上げを遂行しており、2021年決算では一人当たり入場料収入が増加することが予想されます(下記リンク参照)。

勝ち点1pt当たり入場料収益
2020年シーズンは勝ち点83Pt と2位のG大阪の65ptを大差をつけて優勝していることから、1pt当たりの入場料収入が5.5百万円と1位の神戸の11.7百万円の半分以下となっています。

この要因として以下の①〜②が要因として挙げられます。
①一人当たり入場料収入がJ1クラブの中位に位置しているため
②フロンターレが83ptと勝ちすぎているため

このうち②は調整が難しいことから、①を上位に引き上げる必要があり、クラブの興行の価値を考えると現在の入場料収入が割安であると伺えます。
現在のクラブの継続的な成長を考えると入場料収入の増加が不可欠であり、Jリーグ全クラブ中1位であるスタジアム収容割合が多少下げてでもチケット価格の値上をして1人当たり入場料を上昇させたうえで、リーグ制覇等により収容割合を今の位置に戻して、更にチケット価格を値上するような好循環に繋げることでコンテンツとしての価値を上げていくことが望ましいと考えます。

トップ昇格者数
2020年度はアカデミーからの昇格者は大学経由で1名(名良橋選手、現藤枝所属)とJ1平均の2名を下回る結果となりました。近隣クラブの横浜FMが5名、FC東京が3名輩出していることを考えるとアカデミー収益と同様に苦戦をしています。

なお、2019年度は日本代表歴のある三笘選手が筑波大学から加入するなど、近年、日本代表に選出されている質の高い選手がユースまたは大学経由で昇格しており、また、新たなアカデミーの拠点となる「フロンタウン生田」が完成することでアカデミーに優秀な選手が集まる可能性が高くなることで、今後の昇格者の増加に期待が高まります。

6.まとめ

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7.次回

次回は2021年シーズンJ1・2位の横浜Fマリノスを取り上げていきたいと思います。

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

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