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ねえ、目がすき。見下ろす彼にそう言った

彼とどうしてそうなったのかは、お互いわかっていました。

コンビニで買ったストロング缶。

そのまま流れ着いたホテルの安っぽい黒いソファ。

もう少し飲まないと間が持たない気がして、何となく二人同時にお酒に手を伸ばします。そしてほんのひとくち口に含んだだけで、その夜のお酒の出番はなくなりました。

お酒の勢いで流されるということのない私は、完全に選択した意識を持って彼と向き合っています。むしろ彼のほうが探っているようで、私にどう触れたらいいのかもわからないみたいに見えました。

本当にいいのだろうかというためらいが彼から消えたとき、その瞳の奥の色が一層濃くなります。瞳の表面は光るのに、そのずっと奥の方まで穴のように黒く落ちる目。

彼の目が好きでした。

とても好きで、その暗さに引き込まれてしまうようでした。

彼が私を欲しそうに見つめるだけで、私はお酒よりもずっと深く酔うことができました。


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