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コーポ

五月雨式に言葉が出てしまう。 後から付け加えたようなことばかりが、漏れ出る。 彼女の白い指先だけが、ぼぅっと浮かんで、グラスの中の蝋が、ぐにゃりと揺れた。 小さいレストランの机には、ブルケッタが真ん中に鎮座している。 トマトは真っ赤に熟れて、角がない。 かりっとトーストされたフランスパンの上にたらりとのっかっている。 一つだけ口に運んで、咀嚼する。 放置されかさかさしたパンが通り過ぎ、薄甘いトマトとオリーブオイルが、喉に膜を張る。 彼女は手をつけず、俯いている。 汗をかいたグ

    • 馬車道

      グラスの中で朧げに光る蝋に やましさを溶かした 別れの言葉を譫言のように灯らせ 蜃気楼と歪ませる 手を触れたら最後 首筋に吸い込まれてしまう 小指でさえ交わってはいけない 外殻、内、どろり 破ってはいけない だから私結んではいけない

      • アクア記念日

        それでも柔く指を沈めた感覚は、今もある。 薄い空気を吸うしかできない息苦しさも。 太陽を遮って放つ匂いも。 舌を舌でなぞられるより、唇を唇で噛まれる心地よさも。 ガラスの中で灯る蝋の光も。 薄闇の中浮かぶ手も。 低めのアルトの声も。 左右対称の房で、心臓は点対象で、 すっぽり抱き合ったままでいればよかった。 ギリシャ神話の犬は狼の出立ちで ベッドを覗いていた。 水彩で描かれたそれは、薄ぼけている。 その絵を筆頭に、結束タグで心許なく繋がれる格子には、数えきれないほどのコレク

        • いくし゛なし

          まだ枝木にもたれ、萼にすっぽり包まれるべき花びらのように、瑞々しい耳朶だと思った。 本来であれば、そこに居たはずなのに、突風に追い出され、寄る辺なくなった。 あまりにも冷たくて、湿っている。 アスファルトに晒らされたあの、清涼で仄暗い花びら。 つぷっと針を刺して、がちゃんと閉じた。 前歯で、さくらんぼを弾いた感触。 震える手を離すと、あっという間に装飾が施された。 なんてことない。ただのピアス。 親という立場になると、あまりにも世間が見え過ぎていて、損得ではかってしまう。

        コーポ

          肉体

          裸になった時に、本領を発揮できると常々思っていた。 特段美しい顔を持って生まれてもいないし、美的センスがある訳でもないし、服を纏った時にピタッとくるような長い手足も、なかった。 ただ裸になると、ウエストと反比例するお尻がいい。 親しみがあって、かつ少しだけ性の匂いのする感じが。 今流行りの骨格タイプで言えば、上半身ストレートの、下半身ウェーブというやつで、服選びには向かない体つき。 広がった肩も、短い足も、ウエストだけきゅっと搾られて、鳩胸アスリートなCカップも、ヘルシーで愛

          ストリップ遠征記 岐阜まさご座編

          まさご座に憧れている。岐阜県に憧れている。 ストリップに焦がれている。 ずっとずっと待ち望んでいた場所に、今回行けることになった。 なったというか、お仕事の繁忙期を乗り越えて、ご褒美に、遠征旅行に行くことにした。 関東の民なので、岐阜とは縁遠い。 だけれど、ストリップファンとしては、一度は訪れたい場所だった。 印象的な電飾看板、絨毯敷という珍しい劇場、洋館を思わせる重厚感がある。 土足厳禁という唯一無二なルール。 興味は、ぐんぐん膨らんでいた。 ストリップがご縁で繋がったSN

          ストリップ遠征記 岐阜まさご座編

          社不伝

          本当に仕事が長続きしない。 人が嫌になって、すぐ辞めてしまう。 毎日仕事に通うのも、しんどい。 なんとなしに、職歴を列挙してみたら、鬱になった。 鬱になったついでに、その恥でしかない暦を晒そうと思う。 高校生時代アルバイト 本屋(数ヶ月で辞めた) 郵便局年賀状仕訳(超短期) パン屋(数ヶ月で辞めた) 動物園売店(数ヶ月で辞めた) ファストフード(数日で辞めた) レンタルビデオ(数ヶ月で辞めた) 印刷工場(短期契約満了) 専門学校時代アルバイト コンビニ(数ヶ月で辞めた)

          かけひき

          少しだけ愛だとか恋だとかに、足元掬われたかった。 ちょうど良いところで貴女が、私を見てくださいと声をかけたから、私は貴女を好きになってしまったと伝えた。 貴女は、遠くの方を見ていて、ただその人の視線が返ってくるのを待ち侘びていた。 私はてんで、いろはも知らず、阿呆のように喜び勇んで、熱を上げた。 貴女が私から欲したのは、直向きな賞賛であり、私に触れたいだとか、私への求心でない。 気付いた途端虚しくなって、私はそっぽを向いた。 いつだって焦がれてるんだろ、貴女も私も。 柔らかい

          かけひき

          カテゴライズ

          ずっと恋愛をしていないと、生きていけない人間だった。 誰かを好きで、誰かを口説いていなければ、苦しいと思うほどに、恋愛脳だった。 古典的なキザなことをするのが、楽しい。 私に少しでも心絆されてくれたら、嬉しい。 かっこいいと色めいた視線を貰えたら、心地よい。 誰かより魅力的に見えたら、勝ちだなんてそんな風に思っていた。 だからそのためにかっこよく見えるであろう格好をしたりだとか、自分がされたら嬉しいであろう行動をした。 相手を傷つけられるほど、絶世の美男美女でも、器用な人間で

          カテゴライズ

          断罪

          君ってずるいよね。 そうやって、まだ私も覚えているよみたいに、"それ"身につけてさ。 私がなんとも思ってないと思ってるのかな? それとも、なんとも思ってるのを手に取るようにわかるから、軽快なリップサービスのように纏わせているんだろうね。 私はほら、単純な人間だから、わかりやすく喜んでしまうし、あー、可愛い顔して笑ってるなーなんて、少しだけ浮ついた心で見てしまった。 一線を超えてこない私は、人畜無害。 好きだった君も、もはや推しの概念に変わっていた。 それなのに。 夕日に混

          セックス の話

          セックスはしたくない。 人を介して気持ちよくなりたくない。 作られた作品を見て自慰は好きだけど、他者と交わりたくない。 体を触れ合わせて抱き締めることも、抱き締められることも好きだけど、他者の異物が入るのは嫌だ。愛を囁かれたくない。綺麗だとか、可愛いとか、気持ちいいとか、えっちだねとかうすら寒い。気持ち悪いの域に達している。 だからと言ってそれをする人たちに侮蔑の感情はないし、正直羨ましさもある。 なぜ私はそちらになれず、自分で完結してしまうのかと悩んでいるに近い。 自分の性

          セックス の話

          彼女と別れる少し前の話。

          ご飯は彼女が持って帰ってきたコンビニの廃棄だった。 体に悪いなと思いながらも、生命線のそれを2人で美味しいとむしゃむしゃ食べた。 私達はお金がなかった。だけどこの小さなアパートの一室があれば多分何もいらなかったんだと思う。 そのアパートはコーポすみれという名前で六万円の家賃を2人で折半して払っていた。 三万の出費でさえ、ひーひー言いいながら、私はリラクゼーションのアルバイトで月に15万ほど稼いでくるそんな暮らしだった。 どうでもいいようなことで喧嘩して、 例えば前の彼女が好き

          彼女と別れる少し前の話。

          スト客、芦原遠征旅行〜母ちゃんだって何者だって好きなものがあるって最高〜

          ストリップに出会ったのは、4年とちょっと前。 私は結婚して子供を産んで、子供が幼稚園生だった時だ。 フルじゃないパートの仕事を始めて、時間的余裕も生まれて、ずっと抱えてた気持ちが爆ぜた時でもある。 まだその時の私は、お母さんになりきれなくて、付き合っていた女性の恋人と、またどこかで縁が繋がると思っていた。 この生活を大事にすることなく、かといって世間の常識ってやつに固執しているので、上辺の努力をしていた頃だ。 子供は可愛いが、彼女と過ごした日々が恋しい。 旦那さんのことは愛し

          スト客、芦原遠征旅行〜母ちゃんだって何者だって好きなものがあるって最高〜

          ろくでなしジゴロ

          熱が、熱が、ただ熱が続けばいい。 後部座席の窓から差し出された唇に返礼よりも激しくキスをした。 酔っている、それもひどく。 「また会おうね〇〇ちゃん」 「レイさーん、絶対ですよぅ」 嬌声にも似た声色がアルコール漬けの脳にまとわりつく。 さて、果たしてその〇〇の名前は正しく言えただろうか。 適当にその時思い浮かんだ名前に別れ告げ、愛しい女が待つ家路に向かう。 いつ刺されてもおかしくない火遊びは愛しい女との平穏のための犠牲だ。 傲慢よりも甚だしい欲求は、向けるべき相手に拒否され持

          ろくでなしジゴロ

          一幕

          列に並ぶその人が気になる。いつしかそちらの方に気がとられている自分に気づきハッとした。 「2枚で、おまかせで」 私の順が回ってきたのもやっとの認識で絞り出すようにそう告げた。 ここはストリップ劇場。私はステージに立つとあるお姐さんが目当てできている。 お姐さんとの出会いは地元にある劇場で、参加型の魅せる演目に目を奪われた。がちっと自分の中で嵌る音がして、そこからそのお姐さんが出る劇場に足を運んでいる。 きっかけはそれだったが、どんどん通う内に今自分が悩んでる悩みが払拭されるよ

          素晴らしき哉、ストリップ人生

          私はお腹が空いてもチェーン店の店の、それも一度誰かと行ったことのある店しか入れない。でもストリップには通う、1人で。行ったことない町にも足を踏み入れるし、寄り道もしないで目的地は特定のお姐さん。 そのお姐さんがいる劇場へ足を今日も運ぶ。 そもそもの始まりは女体がみたいな、だった。 私は当時、同棲していた彼女と別れ、その後男性と結婚して子供を産んでいた。育児や家事、仕事。毎日せっせと過ごしていた。 精神的な病気を持ちながらこの生活をするのは中々ハードだ。 お母さんになった途端

          素晴らしき哉、ストリップ人生