ろくでなしジゴロ


熱が、熱が、ただ熱が続けばいい。
後部座席の窓から差し出された唇に返礼よりも激しくキスをした。
酔っている、それもひどく。
「また会おうね〇〇ちゃん」
「レイさーん、絶対ですよぅ」
嬌声にも似た声色がアルコール漬けの脳にまとわりつく。
さて、果たしてその〇〇の名前は正しく言えただろうか。
適当にその時思い浮かんだ名前に別れ告げ、愛しい女が待つ家路に向かう。
いつ刺されてもおかしくない火遊びは愛しい女との平穏のための犠牲だ。
傲慢よりも甚だしい欲求は、向けるべき相手に拒否され持て余していた。
ウーマンオンリーの飲み屋で適当に引っ掛けた女の子、オフ会にふらっと顔を出して同じ思惑の女の子と関係を持った。
今日はそのオフ会の帰りで、いつものように事を終えたところだ。
彼女との家路にと、とぼとぼ歩く。
彼女は起きているいだろうか。
私が今何しているか気にかけてくれているだろうか。
最近出てくる獣医師の男と仲良くやっているのではないか。
なぜ私に髪を短くして欲しいと願うのだろうか。
この胸の膨らみを隠すような服ばかり買い与えてくるのだろうか。
それでいて私を紹介する時は友達と強調して話すのはなぜ。
言えない感情が等間隔の街灯にぶつけては自暴自棄になっていく。
自宅のドアは目の前。
開けるに開けられない。開けたら今日終わるかもしれない。
その前に私のしでかした過ちに罰が下るかもしれない。
ごくっと唾を飲みドアを開けた。
部屋は真っ暗で彼女の愛犬がわんと鳴いた。
そろりと寝室に向かうと彼女の整った呼吸がした。
ぱさっと服を脱ぎ自分の二房に目を落とす。
こんなものなくなってしまえばいい。ここに詰まる熱が熱が熱が早く醒めて仕舞えばいいのに。
そう思いながら彼女の眠る横にするりと入っていった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?