渇望ピンク【オリジナルSS】
渇望ピンク
絶対に負けたくない。歌も、ダンスも、人気も、あの子にだけは何があっても負けたくない。そんな強い気持ちになったのはいつからだっけ。
私たち「トワイライトミューズ」は二人組のアイドルユニットだ。高校卒業と同時に親友だった蒼唯(あおい)と上京し、すぐにオーディションに受かってアイドルデビューした。まだまだ駆け出しで単独のライブも少ないけど、活動して2年目、着実にファンを増やしてきていると思う。SNSだって頑張っていて、今はフォロワーももうすぐ1万人というところまで来た。レッスンもボイトレもジム通いも手を抜いてない、隙があればライブ配信だってしている。出来るだけの努力をしてきても、いざライブが始まって目につくのは、私のカラーのピンクよりも多いブルーのペンライト。蒼唯のファンの多さだった。蒼唯は私よりもSNSのフォロワーは少ないし、ライブ配信だってたまにしかしない。向上心がないわけじゃないんだろうけど、何せ性格がおっとりしているから、努力が目に見えない。それが余計に私を苛立たせた。
「萌々子(ももこ)、明日このカフェ行かない?クレープすっごく美味しそうだよ。」
「明日はレッスンのあとジムだから!もうすぐライブだよ?そんな暇なくない?」
「たまには息抜きと思ったんだけどなぁ。」
「蒼唯は息抜き多すぎ!」
「萌々子はストイックだなぁ。」
次の日ジムを終え帰宅すると、蒼唯がライブ配信をしていた。覗いてみるとのほほんとした蒼唯の声が聞こえてくる。
『今日食べたクレープ最高だったぁ。何味?えーとね、苺がたくさん乗ったショートケーキ風?写真?撮ったよ~。明日SNSに載せるね。』
私はこの子に負けてるの?こんなに頑張ってるのに、どうして蒼唯のほうがライブ配信に人が来てるの?コメントだってアイテムだってたくさん投げられてる。心の中が「私だって」で埋め尽くされる。もうすぐライブがある。私はまた蒼唯に負けるんだろうか。蒼唯のライブ配信に集まっている蒼唯のファンは、心から蒼唯を求めてるように見える。じゃあ私のファンは?私は?そういえば、私はファンの顔ってちゃんと見てたのかな?私が見ていたのは、ずっと蒼唯の背中だったのかも知れない。必要とされてる蒼唯が羨ましくて、たくさんのコールが喉から手が出るほど欲しくて、私は頑張り方を間違えてたのかな。蒼唯の配信のコメントに一言、「お疲れ様」と打って送ってみた。
『萌々子!お疲れ様。来てくれてありがとう。萌々子すごいんだよ、今日もレッスンのあとジムも行ってきたんだって。萌々子は私の憧れなんだ。』
優しい蒼唯の声がする。私はなにをしてたんだろう。勝手に蒼唯を敵視して、妬んで、貶めたいと思ったこともあった。蒼唯のファンを奪ってやろうとも思ってた。私は大事なものをどこかに落としてきてしまったのかも知れない。私は潤んだ視界で、「頑張ろうね」とコメントを打った。
End.
【後書き】
「嫉妬」をテーマに書きました。
アナザーストーリーのこちらも良ければ。
憧憬ブルー
朗読、声劇などお好きにお使いください。
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