夢見る紅茶【オリジナルSS】
夢見る紅茶
一体私のなにがいけないっていうのかしら。初恋のレン君も、3年3組のテツヤくんも、中学のショウゴ先輩も、誰も私のことを好きになってはくれなかったわ。私は恋が敗れれば敗れるほど、どんどん恋に、誰かに愛されることに憧れていったの。そしてついに運命の人を見つけたわ。大学のミスターコンで優勝した北山君。背がスラッと高くて、切れ長の瞳が色っぽい彼に、私はもう夢中になったの。でも彼の周りにはいつも女の子がたくさんいて、私もその中に入ってみたけど全然だめ。彼は私に見向きもしないんだから。
「はぁ…。どうしたらいいのかしら…。」
「お嬢さん、そこの、その厚底の靴を履いて、フリフリの服を着たあなた。」
「私のこと?」
「コホン。お嬢さん、なにかお困りかな?」
帰り道の途中で、「なんでも屋」と看板を横に掲げた怪しいおじさまに声をかけられた。
「好きな人と上手くいかなくて困ってるの。なにかあるかしら?」
「それならちょうどいいものがある。秘密のルートから取り寄せた魔法の茶葉だ。これで紅茶を入れて相手に飲ませれば、たちまちお嬢さんの虜になる。」
「素敵じゃない。それ、頂戴。」
「ただし一つ気をつけなきゃいけないことがあってね。紅茶を飲んだ相手と口づけをすると、相手は3日後に死んでしまう。気をつけなさい。」
彼が私の虜になってくれるなら、キスくらい我慢するわ。そんな気持ちでおじさまから茶葉を買い、次の日私は早速紅茶をボトルに入れて大学へ向かった。この紅茶を持って、北山君をお昼ご飯に誘ってみよう。
「夢子さん!」
ゼミ室に入るやいなや、私に声をかけてきた冴えない眼鏡の男は坂井。前々からなにかにつけて私に話しかけてきて、まるで大型犬みたい。
「なによ。」
「好きです!」
「えぇ!?」
机の上を見ると、私が持ってきたボトルが空いている。そのすぐ近くには蓋のしまったそっくりなボトルが…。
「あなたこれ飲んだの!?」
「間違えて飲んじゃいました!変わった紅茶だったなぁ…。」
「なんてことしてくれたのよ!」
「そんなことより、夢子さん、僕たち結婚しましょう!僕、夢子さんのこと一生愛し続けます!」
それからというもの、ゼミ室での突然のプロポーズはあっという間に大学で広まり、私たちはまるで大学公認カップルのような扱い受けたわ。坂井は見た目はモサっとしてるし、馬鹿真面目でつまらない男だけど、主席で入学してきた成績優秀な学生だったから話題性は十分。坂井は毎日私のあとをついてくるようになってしまい、憧れの北山君とはどんどん遠ざかってしまった。
「夢子さん、今度の日曜はデートに行きましょう!」
「はぁ…。わかったわよ。わかったからちょっと離れて。」
本当に犬みたい、まるでぶんぶん振った尻尾が見えるようだわ。でも不思議と、それにもだんだん慣れていったのか、むしろ心地よさが湧いてくるようになったの。坂井は紅茶の力でずっと私のことを好きでいてくれるでしょう。誰かにこんなに想われるなんて初めてだったから、戸惑いながらも受け入れている自分がいたわ。でも大事なことをすっかり忘れてしまっていた。
「夢子さん、今日は楽しかったです!」
デートの帰り道、不意打ちで坂井にキスをされてしまったの。ファーストキスでドキっとしたのも束の間、思い出したのはあのおじさまの言葉。そうだ、口づけをしてしまってはいけないんだった。
「坂井のばか!」
「だ、だめでしたか…?」
「だめに決まってるじゃない!あなた死んじゃうのよ!?」
それから坂井を連れておじさまを探し回ったわ。でも街中探してもどこにもいない。どうしよう、3日経つまでになんとかしないと。次の日も、その次の日もずっと探し回ってすっかり日も暮れてしまった。
「夢子さん、僕なら大丈夫ですよ。心配しないでも、ずっとそばにいますから。」
坂井の間抜けな笑顔になんだか涙まで出てきた。すると、潤んだ視界の先にあのおじさまがやってきたの。
「おじさま!」
「あぁ、フリフリのお嬢さん。」
「おじさま、あの紅茶なんだけど…。」
「いやあ、お嬢さんには謝らなきゃいけないと思っていたんだよ。実はあれは偽物だったらしいんだ。すまないね。」
「えぇ!?」
「夢子さん、なんの話なんです?」
じゃあ坂井が私のことを好きなのは紅茶の力じゃなかったってことよりも、坂井が死んでしまわなくて済むことに安堵して、ますます涙が出てきた。
「夢子さん、泣かないで。僕がいますから!」
「やれやれ、お嬢さん、すまなかったよ。今度はちゃんとした本物の力を持った紅茶を譲ろう。」
「…いらないわ。だって彼がいるもの!」
End.
【後書き】
テンション高めの作品を書きたくて書いてみました。キーワードは「惚れ薬」。
朗読、声劇、演劇などお好きにお使いください。
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